四竜帝の大陸【青の大陸編】
その鍋が、かたかた……振動?

「ハクちゃん、どうしたの? 具合、悪いの?」

だいぶ落ち着いたようだったのに。

 =りこ。我は、我が情けない。りこに合わせる顔が無い!

「え?」

鍋の揺れが激しくなった。
かたかたが、がちゃがちゃになり……変な楽器みたい。

 =我は今まで仕事で金銭を得、りこを養うという発想が無かった! りこが‘身売り’を考えるまで……うぅ! りこが身売り、身売り? 娼館? 我と暮らすためにりこがっ!!

え?

えぇ~!!
念話だから分かりました! 
私は『娼館で身売りして働こうか?』って言ったのね!?

ぎゃー! 
うそうそ、なしよ!
有り得な~い!

「や、ち・が~う! 勘違い、間違いです!」

 =り、りこに身売りさせるくらいなら我が……我が男娼になって働くぞ? りこの為なら女も男も獣も抱くぞ! いや、抱かれるのか? うぅ、まぁ何とかなる!

「ぎゃー!? やめて~!」

だ、だん、男娼?
女……男と、け、けもっ、獣って何?!

がたがたがちゃがちゃ音を立てて揺れる鍋を私は凝視しつつ私は叫んだ。

『ハクちゃんを‘娼館’で‘身売り’させるなんて嫌ぁあ! 竜帝さんの会社に就職します、そうします! 帝都だってどこだって転勤オッケーですぅぅう!』

てんぱったせいか……思わず日本語になってしまいました。

「よし!おちびは本社勤務決定だ。帝都はいいぞ~! 大陸の中心都市だから活気に溢れ、賑わっている。定住してるのは竜族が多いからヴェルだって堂々連れて歩けるぞ」
「は、はぁ。そうなんだ」

取りあえず竜帝さんに雇ってもらうことにした。
仕事内容は不明だけどハクちゃんが反対しないから、私に不利じゃないってことだと思うんだけど……。

「ま、とりあえず飯だ飯!」

私達は竜帝さんの希望で室内の食堂に移り、晩御飯を食べることにした。
すっかり陽が落ちた中庭は人間の私には肌寒く、小さいくしゃみをしてしまったらカイユさんが慌てて撤収を開始した。

私はハクちゃんの鍋を抱え、竜帝さんを食堂に案内した。
食堂っていっても30畳位あり、長方形のやたら大きなテーブルが中央にバーンと設置された‘食べることだけに使う’部屋。
ハクちゃんはご飯を食べないから、私と離宮に来て初めて食堂に入ったと言っていた。

私は定位置の席に座り、テーブルの上にハクちゃん鍋をそっと置いた。
竜帝は向かいの椅子……ではなくテーブルの上にちょこんと座った。
そりゃそうだよね。
椅子に座ったら、ご飯に手が届かないもの。
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