四竜帝の大陸【青の大陸編】
こんがり焼けた豚さんをダルフェさんが手際よく切り分け、竜帝さんのお皿に乗せていく。
それをぱくぱくと食べる、小さな青い竜。
数分で豚は残り三分の一程になっていた。
肉食竜だ、絶対そうだ。

付け合せの野菜やサラダは、全く口にしていない。
しかし、かわゆい。
 
川の字計画挫折は、非常に残念。
私の視線に気づいた竜帝さんはフォークをくるくるっと回しながらぶーたれた口調で言う。

「あんまり俺様に見蕩れんじゃねぇよ。おちびの熱い視線に比例して、じじいの視線が冷てぇを通り越して痛いんだ。ちったあ学習しろ」
「う、うん。ごめんなさい」
 
うう、反論できません。
その通りでございます。

「あ、あの。ハクちゃん、今のはっ、その、あのっ」

隣に座ったハクちゃんは殺人光線的視線を竜帝さんに放つのを止め、私に視線の高さを合わせるために首を傾げた。
真珠の髪が、ふわりと揺れる。

とんでもなく綺麗なのに、無表情。
この顔に微笑まれたら……腰を抜かす自信が私にはある!

「りこ。我が一番‘かわゆい’のだろう? りこは我のことが‘大好き‘なのだろう? ならば他の雄は必要ないのだから<青>は片付けても問題ないではないか。どうして駄目なのだ?」

冷酷悪役美形顔で‘かわゆい’って……。
しかも大好き発言を此処で言いますか!
皆様の前でっ!
 
ガチャーン。

「し、失礼」

豚さんを切り分けていたダルフェさんが、ナイフとフォークを落としてしまい、慌てて拾うと早足で厨房に戻っていった。
カイユさんをちらりと見るとにこにこしている。
竜帝さんは……。

「俺様は帰る。今すぐ帰る……ぶぶっ」

フォークとナイフをきちんと揃えてお皿に置き、ふわりと中に浮いて言った。

「くくっ……ヴェルに踏み殺される前に笑い死にしそうだ。飯も食ったしな。じゃあな、おちび。帝都で待ってるぞ。カイユ、後を頼む」

青い手を軽く上げた瞬間に、竜帝さんの姿は消えていた。

「えっ、竜帝さんっ! き、きえっ?」

消えちゃった!
 
「消えてはない。通常の動きの範囲内の動作だがりこの視力では捕らえられまい。で、りこ。何故<青>を始末したら駄目なのだ。あれがいなくなったとて次代はすぐに発生する。世界の秩序になんら影響は無い。我はりこが少しでもかわゆいと思った者は目障りだし、とてつもなく不快な気分になるので処分したいのだ」

ハクちゃん。
なんだってこんなに心が狭いというか、器が小さいというか。
竜族の雄だからってあんまりなんじゃない?
 
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