四竜帝の大陸【青の大陸編】
「ダルフェ。3日だ。それ以上は我の気が狂う可能性が高い。途中、メリルーシェの支店に降りろ。そこでりこを目覚めさせる」

ダルフェの顔が引きつった。
メリルーシェは4つの通過国の中間よりも帝都に近い位置にあるが、ダルフェの計画では途中はどこにも降りずに帝都に行くつもりだったからな。

「3日? 姫さんを5日間【繭】に入れて帝都まで飛ぶつもりだったんですがねぇ。旦那~、最高速で飛ぶとしてせめて4日……無理っすね。その様子じゃ。分かりましたよ」

再びりこの顔中に接吻しはじめた我を見たダルフェが額を押さえ、言った。

「【繭】に入れちまったら、触れることも姿を見ることも出来ませんからねぇ~仕方ないか。好きなだけ味見してて下さい。俺は竜体に戻って中庭に待機してますから。くれぐれも力加減を間違えないで下さいよ? 人間はすぐ壊れますからね」
 
中庭に向かうために退室したダルフェがカイユに日程変更を告げる声がしたが、我はそれどころではなかった。

少しでもりこに、長く触れていたかった。
りこを【繭】に入れたら3日も会えないのだ。
考えただけで辛く、内臓を吐きそうになる。

りこの顔面に臓腑をぶちまけるわけにはいかん、耐えろ我!
りこを【繭】に入れたくはないが、こればかりは仕方の無いことなのだ。
異界人であるりこの肉体は竜の高速移動に、耐えられない可能性がある。
慎重にならざるえない。
体液の情報から推測して……りこはこの世界の人間と比べるとかなりの虚弱体質だ。

免疫力も信じられないくらい低い。
こんな弱い生物が食物連鎖の頂点に立つ人類として進化したりこの世界。
平和で……無菌なのだろうか? 
我が与えた竜珠の力がなければりこは簡単に感染症にかかり、あっけなく死んでいたかもしれんのだ。

そういった生物なのか、りこが単体として弱いのかは分からないが。
とにかく、強靭な身体を持つセシーのような軍人などとは違うのだ。
あやつらは竜の背に直に乗り、戦場に駆けつけるくらいは平気でするからな。

術式での移動も考えたが……。
空間移動系の術式は、心体に負担がかかる。
王宮内での移動程度なら我の術の精度であれば、りこに負担をかける可能性はゼロ。
だが……距離が伸びるに従い危険度が増す。

我の術は人間の術士とは比較にならん精度があるが、万に一つの事を考えるとりこを長距離移動させるのに用いようとは思わない。
人間共の移動手段として術式があまり使われないのはそのためだ。
最も重宝がられるのは戦場であって、まともな神経の持ち主は日常では使わん。
移動した先に手足ばらばらで着く危険を犯してまでやろうと思うまい。
再生能力を持たない人間は、確実に死ぬ。
 
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