四竜帝の大陸【青の大陸編】
馬車ならば1ヶ月の旅程が必要な帝都に、竜なら5日間。
りこの身体の弱さを考えると、1ヶ月の長旅はリスクが高すぎた。

他の大陸にあるような列車や空挺と違い、馬車は慣れぬ者には辛いはずだ。
りこの身体に負担をかけてしまう。
カイユは当初、観光しつつ馬車での旅行をりこに楽しんでもらうと言っていたが寝起きの錯乱状態を見て考えを改めたようだった。
思いのほかりこの心身が弱っていると認識したからだろう。
りこが竜帝の口車にのり、帝都行きを承諾してから念話で竜帝・ダルフェ・カイユと話し合った結果が【繭】でりこを保護し、駕籠で運ぶというものだ。

りこの肉体を強化する方法もある……が、まだ早い。
失敗する確立のほうが高い。
これに関しては我に問題がある。
ダルフェも承知している事実なので、提案すらしなかったな。
‘抱っこ’すら完遂できなかった未熟な我には、無理だ。

「……はぁ」

ため息が出た。

む?
我が、ため息?
この我が。

「りこ。我は今‘ため息’が出たぞ?」

意識の無いりこからは、もちろん返事など無かった。
返事を期待して言ったつもりではないのだが、やはり寂しい。
うむ……‘寂しい’か。

この我が‘ため息’をつき‘寂しい’と感じるとは。
我の感情は全てりこから生まれ、りこに向かう。
我の<世界>はりこで埋められ、他の入る余地など無い。

「りこ、りこ。我は‘寂しい’。これからの3日間……きっと、とてつもなく‘寂しい’のだな?」

りこの背を撫でる手の力加減に注意しつつ、黒い髪に顔をうずめた。
あぁ、離れたくない。

「……我も共に【繭】に入りっ」
「駄目です」

我の言葉を途中で遮り、カイユは我からりこを奪い抱きかかえた。
もう準備が終わったのか。
早すぎるぞ、カイユよ。

「ヴェルヴァイド様が一緒に【繭】入ったら内部溶液濃度がめちゃくちゃになります。トリィ様に後遺障害が出てしまいますよ? さ、トリィ様。カイユが【繭】に入れて差し上げます。ご安心くださいね」
 
ダルフェよ。
お前のつがいは、りこの役に立つ。
だから殺さぬが。

が!

「ああも容易くりこを‘抱っこ’しおって。我は、我は……あっ!」

し、しまった!
我としたことが!

「ちょ、ちょっと待たんか! もう一度、りこを舐めさせ……カイユ、待ってくれ!」

りこが寝た後、内緒でしている‘お休みの接吻’をまだしていないのだぞ、我は!


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