四竜帝の大陸【青の大陸編】

26

月明かり中、真紅の竜が東に向かって飛んでいく。
その大きな身体は後ろ足に貴人運搬用の駕籠をしっかりと持ち、背には人影が二つ。
高速で飛ぶ竜は瞬く間に視界から消え、夜空には何事も無かったかのような静寂。

「行ってしまわれたのね、トリィ様。ふふ……明日から寂しくなりますわ」

王宮の4つある尖塔の中で最も高い尖塔の先に立ち、セシーは軽く眼を伏せた。
<監視者>とそのつがいは、セイフォンを去った。
別れの挨拶すら出来ずに。
優しい異界の娘としては、不本意な事だろう。
娘の意思と関係なく物事を進められての旅立ちだろう。

竜帝がわざわざ、帝都から出てきたのだ。
こうなることは予想の範囲内。
<監視者>・竜帝・竜騎士が揃っていてセイフォン側に死者は無く、損害も大したことはないという幸運。

しかもつがいの娘の後見人の立場を、ダルドは得たのだ。
望んだ以上の結果を手にした。
隣国ホークエの奴らが地団駄踏む姿を想像すると、笑いが止まらない。
遅くても1週間で、大陸中の国に竜帝から告知されるはず。
これでダルドが存命中、セイフォンは安泰。
国力を回復させ、溜め込むことに専念できる。

問題はダルドの暗殺だ。
竜帝はダルドが『生きている間』とはっきり言った。
つまり、死んだら‘終わり’なのだ。
つがいの後見の座を手に入れたいと考える者には、邪魔になる。
これからは日々、暗殺者を片付けなくてはならないが……戦をするよりずっと楽だ。

セイフォンは後見人という見返りの変わりに<監視者>のつがいを利用しようと目論む不埒な輩を狩り出す餌として、皇太子を差し出した。
記憶消去の影響でダルド達はいまだ目を覚ましてはいないが、彼らも今回の竜帝の計画に異議は無いだろう。
王族の命は国家のもの。
国家のために、民のために王族はあるのだから。

「うふふっ。忙しくなるわ……‘お客様’をこの私が全て‘おもてなし’してあげましょうね」

セシーは微笑む。
その手が血に染まろうと、守りたいモノがある。
だから、微笑む。
 


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