四竜帝の大陸【青の大陸編】
「これからセイフォンには各国の暗殺部隊が勢ぞろいする状況が長く続きます。そのような物騒な国に一分一秒たりと長居は無用。トリィ様に血なまぐさいセイフォンは似合いません。愛らしいトリィ様には人間なんて野蛮で凶悪な生き物の社会より、穏やかな竜族の元の方が過ごしやすいはずです。ヴェルヴァイド様もそう思われるでしょう?」

セイフォンの国境を過ぎホークエの首都ベルツェ上空で、カイユが問うてきた。
ダルフェの額に立って術式を行使している我は、進行方向を向いたまま答えた。

「我が選ぶのではない。決めるのはりこだ」

面倒だったが、りこに関することだったからな。

「しかし、トリィ様はっ」
「黙れカイユ。気が散る。次は許さん」

何か言いかけたカイユだが、口を噤んだ。 
ダルフェが飛行する高度は雲より遥か上。
下界のホークエの姿は全く見えないが、どうも大気が不安定だ。
この下は雷雨かもしれんな。
我自身は風圧などに足元が揺らぐことはまったく無いのだが……駕籠は違う。
りこを運ぶ貴人用駕籠は素材や内装は良いが、快適さを求めるために風圧を避ける構造とはかけ離れている。
そのために術式を使って風が駕籠に触れる直前に、転移させている。
風の『力』だけを抜き取り転移し、後方に流す。
りこの駕籠に少しの振動も与えたくない。

丸みを帯びた長方形のそれは品の良い宝石箱のように繊細な装飾が施され、朝日を反射しきらきらと輝いている。
高速移動においては通常、細長い流線型の軽金属製のものを用いるのだが。
カイユが手配してあったのは<空飛ぶ宝石箱>のこれだった。
最初から我を‘風除け’として使うつもりが丸出しだ。

まぁ我としても実用一点張りの<空飛ぶ棺桶>より、りこには宝石箱の方が似合うと思うので文句は無い。
しかし……りこの顔を見ずに過ごした昨晩は辛かった。

我は睡眠が必要ないので毎晩、りこの寝顔を見て吐息を感じて楽しい夜を過ごしていたのに。
  
りこ。
我は‘寂しい’の真っ最中だ。
このままでは……また泣いてしまいそうだぞ?
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