四竜帝の大陸【青の大陸編】
まぁ、それは置いといて。

私としては、記録的な速さで入浴を終えた。
離宮のお風呂より狭い浴室だったけれど、内装は豪華で湯船には薄いブルーの花びらが無数に浮かんでいた。
セイフォンとは違い、湯船はバスタブタイプでは無く床と一体になった固定式。
深さがあり、座ると鼻下までお湯に浸かってしまう。
花びらを掻き分けると隅に腰掛用らしき部分があった。
つるりとした滑らかなラインをしていて、ここに座れば長湯するのに快適そう!
薄いブルーの花びらはミチコ(同じ名前の先輩が職場にいたっけ)といって、保湿効果のある美容成分が出てるらしい。
長風呂派の私に最適な低めな湯温。
あぁ、もったい。
いつもの私だったら1時間はかる~く入るのに。

ほんのり甘い香りが素敵だったけれど、ゆっくりはしていられない。
濡れた髪をタオルでふきふき、空いた手でドアにを開けようとしたら……。
私が開ける前に反対側から引かれ、全開状態になった。

「りこ、りこ! 無事か? 転ばなかったか? だいじょうぶか?」
 ハクちゃんが私に伸ばした手をにぎにぎしながら言った。
「わ、我は心配で心配で。りこが風呂で溺れたらどうしようかとっ!」

は? 
溺れませんよっ?
パワーダウンしているようだったけれど、やっぱりハクちゃんは超過保護だ。

「心配しすぎ、ハクちゃん。それに私は泳ぐの得意。だから溺れません」
「そうなのか? りこは泳げるのか。なら、安心だな」

両手をにぎにぎしつつ首を傾げる美形無表情男に、嫌味は通じていなかった。
言った私が自己嫌悪を感じるほどの、彼の素直さ……。

「手……にぎにぎしなくていいよ。力加減、うまくなってるし。触っても平気だと思うよ?」

心配されて本当は嬉しいのに、嫌なこと言っちゃった。
ハクちゃんみたいに素直になれない。
私、嫌な女だね。
ハクちゃんは「ゆっくり入浴してくるがいい。人間は風呂で疲れがとれるのだろう?」って言ってくれたのに、私はすごく早く出てしまって。
うう~、恥ずかしくて、言えない。
 
ハクちゃんの姿が見えないから……早く出たなんて。
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