四竜帝の大陸【青の大陸編】

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「支店長~! こっちの確認、お願いしま~す」

ミチの声に、バイロイトは作業の手を止めた。
使用していた工具を皮製の収納袋にきちんと閉まってから、ミチのいる寝室に向かう。

「よく頑張ったね……ミチ係長、ラーズ課長。すごく綺麗になったからカイユも喜ぶよ」

血だらけ……いや、溶液だらけだったここを少年2人で完璧に修復してくれたことにバイロイトは感謝した。
昨日の早朝から作業を開始し、徹夜で進めて……なんとか間に合った。
竜族は人間とは体力が違うため、強行軍で作業をこなしても特に問題は無い。
駕籠の中の寝室は寝具から壁紙まで全て入れ替え、張替えのリフォーム作業。
ミチとラーズは一言も不満を口にせず、黙々と働いてくれた。
自分は扉の補修、取り付けにかかりきりでほとんど手伝ってやれなかった。
駕籠の……しかも特1等級貴人用の扉の取り付けなど専門家の仕事だ。
手先の器用さに自信があり、過去に特殊駕籠補修技能講習会に出ておいたのが幸いした。
過去……60年程前のことだが。
ま、飛行中に取れなければ上出来だ。
帝都には講師クラスの職人が多く常駐しているのだから、そちらに後は任せることにして。

「ねぇ、支店長。ヴェルヴァイド様ってあわてん坊さんなの? 【繭】を素手で開封するなんて。それは部屋が汚れちゃうよね~」

にこにこと言うラーズに、ミチがあきれたように言う。

「ラーズはのんきだな、もう! 【繭】を手で千切るなんて、とんでもない腕力ってことだよ? 普通は竜族だって無理だし。【繭】は感触は柔らかいけど、めちゃくちゃ丈夫なんだって研修で習ったじゃないか。……あ、あのぉ支店長」

張替え終わった壁紙のチェックを終えたミチはバイロイトに不安げな瞳を向けた。

「僕がカイユ様の連絡をしっかり聞けなかったから、支店長は怒られたんでしょう? ヴェルヴァイド様の奥様がご一緒だったのに着陸用絨毯も出さなくて……僕が、僕がっ」

ミチはこのことを気にしていて、ずっと落ち込んでいた。
泣き出しそうなミチの頭を撫でてやりながらバイロイトは首を振る。

「ミチのミスじゃないよ。私が電鏡を避けたのが原因だからね。それに怒られたりしてないから、安心しなさい」

怒られてはいない。
殺されそうになっただけ。
だが、こうして生きている。
つまり、問題なし。

と、バイロイトは思うことにした。

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