四竜帝の大陸【青の大陸編】
「駕籠の補修が終わったら、奥様とお茶する予定でしたよね! 楽しみ~!」

奥様。
黒髪の娘は命の恩人。
今回の失態の責めをおい、自分はヴェルヴァイドに処分……殺されることを覚悟していた。
だが、カイユがヴェルヴァイドの不興から逃れる術を用意してくれた。
ヴェルヴァイドは食物を摂取しないために料理名など全く知らず、かれーなるものが分からない。
そこで世界中の物産・文化に詳しいバイロイトに任せるようにカイユが進言してくれたのだ。 延命のチャンス到来!
が。
バイロイトは“かれー”を知らなかった。

なので書物を調べ、カリールという料理を参考に“かれー”を作ってみた。
作りながら「これは絶対に不味いな」と思った。
バイロイトの作業を覗き込んだカイユの夫が絶句したのを見て、他の者から見ても不味そうなのだなとちょっと不安になったが。
異界人とは味覚が変わっているんだろうと……作業を進めた。
よくよく考えたら彼女の希望したかれーとは異界の食べ物であって、カリールでは無いんじゃないか?
気づいたがすでに遅く……異臭を放つ皿は食卓に運ばれていた。
皿を凝視した娘の姿に自分は死ぬんだな、確信した。
だが。
彼女はバイロイトの危機を察知し、あのカリールを食べてくれた。
世界4大珍料理として本に載っていたカリールを。
なんと優しい心の娘だと感心した。
あのヴェルヴァイドのつがいならば、どんな我儘も贅沢も許されるのに。
怪しげな料理を提供してしまった自分に叱責ではなく、感謝の言葉をくれたのだ。
だから今、こうして生きていられる。

「そういえば……あぁ。なるほど」

バイロイトは、昨日の昼食時に見た小柄な娘に対するヴェルヴァイドの様子を思い出した。
他者に奉仕などしたことが無い彼が、娘に給餌行為を強いていた。
雌に食物を与える……あれは竜にとっては求愛行動の1つ。
近年、若い世代ではすっかり廃れていたが。
古代種に近いといわれているヴェルヴァイドなら、給餌行為に執着するのも頷ける。

バイロイトは確信した。

 
あれはまだ、娘に『手』をつけてはいないと。

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