四竜帝の大陸【青の大陸編】
支店の関係者を始末するには、陛下の許可がいる。
めんどくせ~。

「あんた、シャゼリズっていうのか。俺はダルフェ」

飛び切りの笑顔で言ってやると、男は見る見る青ざめた。
どこまで俺の……<色持ち>の竜族について知っているのか気になるが、取りあえず保留だな。

「中に入って、二人とも! シャゼリスさん、支店長は事務所にいるよ。今、時間無いから急いで用件を済ませてね。あっ、ダルフェさんに頼まれてた茶葉とか、朝のうちに駕籠に積み終わってます。日持ちのするお菓子もね」
「ありがとな、ラーズ君。ハニーも喜ぶよ」

30前後で中肉中背。
典型的なメリルーシェ人の容貌。
この国の8割の人間がそうであるように、この男も癖の強い明るい赤茶の髪に薄い茶色の眼をしていた。
癖の強い髪はメリルーシェの風習により、肩につかない長さで揃えられている。
全く喋らず2階への階段を早足で上っていった男を眺めていた俺に、ラーズが屈託の無い笑顔で教えてくれた。

「彼は新しい契約術士のシャゼリズ・ゾペロさんです。ちょっと人見知りさんだけど、国内で5本の指に入る術士なんですよ。支店長がスカウトしたんです。休業中は自宅待機にしてもらってたんですが、支店長に急用があるって……」

あの支店長が選んだのか。
側で見張るためか?
偶然か?

「さぁて。まずはお茶会だなぁ。俺は屋上に戻らないと」
「僕達もすぐ、行きます! どきどきします。支店長に言われた注意事項を忘れないように、頑張ります」
「は? 注意事項?」

思わず聞き返してしまった。

「はい! ‘死にたくなかったら注意事項を厳守しなさい。私では守りきれませんから’って支店長が」

支店長さんよ、すまないなぁ。
苦労をかけて。
旦那は幼竜だろうと赤子だろうと関係なく、迷いも無く処分しちまうからなぁ。
保護者としては、お茶会なんざ大迷惑だよな、うん。

「姫さんが一緒だから、旦那は子供にゃ手を出さない。ま、気楽にな!」

姫さんの前では、世間一般に残虐非道と言われる行為を旦那はしない。
旦那はちゃんと理解している。
姫さんは暴力を怖がる、普通の人間だってな。
だからこの1ヶ月、誰も死なずに済んでいる。
俺を吹っ飛ばす程度は旦那にとっちゃ、暴力という意識すらないレベルだろう。

「今朝、コナリ嬢と作った菓子を出すから楽しみにしててな」
「はい!」

あ。
そういや。

「電鏡をくれ。最後のも割れちまった。俺のハニーがちょっと力入れたら粉々だ。もっと強度を改善しろって開発部に言っといてね」

俺のハニーは悪くない。
弱い電鏡が悪いのだよ、少年よ!

「請求書はどちらに? 帝都の竜騎士団本部ですか?」 
「うんにゃ、陛下にだよ」

竜騎士団の予算が残り少ないのは、俺のハニーのせいじゃない。
最初っから額が少ないから……と、いうことにしといてくれ!


< 147 / 807 >

この作品をシェア

pagetop