四竜帝の大陸【青の大陸編】
「なんと愉快で愚かなことでしょうね? あの御方に近づこうとする王族という生き物は。あぁ、貴方はどうしますか術士殿? <監視者>に会いたいと望むならば<支店長>である私が責任を持って会わせて差し上げます」

弾かれたように顔を上げ、食い入るように自分より頭2つ分は背の高いバイロイトを凝視した。

「し、支店長……私はっ」
「命の保障はできませんが」

シャゼリズ・ゾペロという偽名で生きてきた男。
母親は稀代の術士ソフェ・ルイシャン
術士なら皆、彼女の名を知っている。
彼女が天才的な才能を持っていたからではない。
<監視者>に<処分>された術士として記録されているからだ。
小さな小さな羽虫1匹のために、<処分>された術士。

「……どこまで‘私’の事をご存知なんですか? バイロイト支店長」

バイロイトは不似合いな笑みを消し、いつもの柔らかな微笑みを浮かべて答えた。

「さあ? まぁ、今回は<監視者>に会うのはお止めなさい。貴方は失うには惜しい術士です」

優雅な仕草で書状を折りたたみ、胸ポケットにしまう。

「シャゼリズ・ゾペロとしてこのまま生きていきなさい。協力は惜しみませんよ。ソフェの望みは君の幸せな未来だったのだから。……今日はお帰り。明日からは通常営業ですから出勤時間はいつも通りでお願いしますね」

藍の眼は幼竜達に向けているものと同じ……深い慈愛をたたえていた。
シャゼリズは何か言いかけた口を手で押さえ、2回程深く息を吸った。
もっと……もっと早くにこの竜族に会えていたならば。
自分はここまで堕ちていなかったかもしれない。
だが、手遅れなのだ。

「はい。支店長」

契約期間中は‘腕は良いが人見知りでおとなしい術士’でいよう。
それが自分にとって……幸せだったと思える最後の時間になるだろう。


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