四竜帝の大陸【青の大陸編】
キス。
言えなかった。

貴方と、キスしたいなんて。
私、言えなかったの。

キス以上のことだって、貴方と……。

「……ハクちゃん」

抱きつくのが精一杯で。 
竜族のハクちゃんが人間の私をそういう対象として見てるって、思わなかったから。
だって。
なんでお風呂に一緒に入りたいのって訊いたら……ぶくぶく(タオルに空気入れて沈める遊び)と、りこちゃん歌謡オンステージ(私がひたすら歌っている)が面白いからだって答えたから。
その答えに、確信したのよね。
だから、よけいに言えなかったし言っちゃ駄目だと思ったの。

「ハクちゃん、ごめんね」

そうだ。
前にダルフェさんが言ってた。
ハクちゃんは私の夫になれるんだって。
そっか。
そういうことだったんだ。
私、よく分かってなかった。
支店長さん。
ありがとう。
でも、もうちょっと穏やかな方法が良かったです。

「ハクちゃん。ね、ハクちゃん!」

白い髪を引っ張ると、妖しい笑みを浮かべた人外の美貌が私を見下ろした。
こんな顔、させたくないのに。
させたのは、私だ。

あ。
まずい。
単語がわからない。

キスって単語。

うっ。

誰か言ってたよね。
女は度胸、男は愛嬌って!
ん? 
ちょっと違うような気もしますが。
今の私に必要なのは度胸だ!

「りこ。我は非常に気分が悪い。すぐに全て潰して……!!!」

金の眼の中心にある瞳孔が開いて、丸くなった。
普段はちょっと縦長な彼の瞳孔が、真ん丸になってしまっていた。
ひーっ!
眼、閉じてよ~ってか、私も閉じようよ!
がぁぁ~だめだぁ!
緊張のあまり閉じれな~い!

ハクちゃんとの初ちゅーは、お互い眼を開いたまま。
カチンコチンになり。
気づいた時には屋上には私達だけしかいなくて。
あわあわとした私にハクちゃんが言った。

「……りこ」
「ふわぁいいぃ!」

てんぱった私からは変な声が出た。
うわーん、最悪!
なんで、私ってこうなのよぉ~!


「結婚してくれ」


は?


「りこは人間だ。だから人間の男のように恋文で求婚しようと考えていたのだが……書きかけをセイフォンに忘れてきてしまったのだ。出る前はその、忙しくてだな」

い、いま。
今、なん……?


「恋文はやめだ。間に合わん」

ハクちゃん。
ねぇ、なんて言っ……。


「りこを我の妻に。……我と結婚してくれ。とりい・りこ」


“結婚婚してくれ”


「……はい。ハク」


うん。
私……ハクちゃんの妻になりたいよ。

「私と結婚して下さい。ハクちゃん」

この世界に落とされた。

貴方に会うために。

貴方といるためだったら。


どこまでに堕ちても、かまわない。




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