四竜帝の大陸【青の大陸編】
なぜか、お医者様が来た。
ハクちゃんはお医者様が私を診察すると言ったら、私から離れてしまった。

「我は隣室に居る。……我が妻に触れることを許可する。人間の医者よ」

何がなんだか分からなくてハクちゃんのガウンを掴んで引きとめようとする私に、お医者様は言った。
私が竜族に乱暴され、瀕死の状態だと言われ連れてこられたって。
な?!
なんてこと言うのよ、このお婆さんはっ!

「ち、違います! そんなことありません」

否定した私に、お婆さんは言った。

「怪我をしていたそうですよ? 診察はしましょう。一応ね」

ハクちゃんはダルフェさんと、居間に行ってしまった。
項垂れてとぼとぼ歩くハクちゃんは、小さな子供のようだった。

診察前にカイユさんが来て、真っ赤な液体を手早く洗い流してくれた。
泣いてた。
カイユさんは泣きながら、私を綺麗にしてくれた。
 
「カイユ。この赤いのなに? 血みたいで気持ち悪いね。……なんで泣いてるの?」

そう聞いたんだけど、カイユさんは答えてくれなかった。 
 
バスローブを着て、ベットに横になった私をお医者様が診察した。
すごく嫌だったけど。
我慢した。
私は乱暴なんかされてないって、証明したかったから。

怪我をしていたって言われても。
今はどこも痛くない。
 
そういえば。

どうして。
なんで私は無事なの?
 



お医者さんは診察を終えると言った。

「白い髪の竜族は貴女の何?」
「つがいです。ハクちゃんは私の夫です」

ハクちゃんは、私の夫。  
そう、夫になったの。

「……そうですか」

お医者さんはそれ以上何も言わず、帰った。
カイユさんが言った。

「私は許せない」

も彼女は、もう泣いていなかった。
許せないって何を、誰を?
ねぇ、カイユさん。
私、ハクちゃんの妻になったのよ?
私達、本当のつがいに……伴侶に、夫婦になれたの。

「カイユ、ねぇカイユ。もうハクちゃんのとこに戻っていい? 診察は終わったんだし」

カイユさんは微笑んだ。
優しくて柔らかなそれは……とっても懐かしい気がした。

「貴女の望みのままに」

あぁ、そうだった。
カイユさんは‘お母さん’なんだ。
お腹の赤ちゃん。
生まれたら抱っこさせてもらおう。

「……ハクちゃん?」

 
居間に行くとダルフェさんは居なかった。
ハクちゃん……ハクはどこ?
あ。
居た。



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