四竜帝の大陸【青の大陸編】
真っ赤に染まったベージュのガウン。
あ、そっか。
さっき、ついちゃったのね?

「ハクちゃん、ハク」

床に丸まったガウンの間から、小さな白い竜が顔を出した。

「かわいそうに。また……まだ泣いてたんだね」

床一面に転がる無数の真珠。
 
「おいで。ハクちゃん」

よたよたと短い足で私に駆け寄ってきた白い竜は、後一歩という距離で止まり。
うずくまってしまった。
手足を丸め。

震えていた。

私は床に膝をついて。
腕を伸ばした。
 
震える小さな身体を膝に乗せ、身体を前にかがめた。
いつもより、さらに冷たくなってしまったハクちゃんを暖めたくて。
卵を抱くように。
ハクちゃんの小さな身体をそっと、包み込む。

「大好きよ。大好き……私の泣き虫な旦那様」

私の膝からこぼれた真珠が、床に転がっていく。
ころころ、転がる。
無数に。
星のようにきらきら輝いて。
 
「……私に触れながら、泣いてたもんね。怖かったでしょう? とめられなくて辛かったよね?」

私。
ハクちゃんを助けられなかった。
あんなに泣いてたのに。
 
りこ 
まだ、駄目だ
我から、逃げろ
りこを傷つけてしまう
 
りこが壊れてしまう
  
りこ
りこ
我を、拒んでくれ

嫌だと、言ってくれ
我を、止めてくれ

 
あの時。
竜の姿じゃないのに、頭にハクちゃんの声が響いていた。
頭の中も身体の中も……心の底まで。
ぐちゃぐちゃのどろどろで。
ハクちゃんで、いっぱいになった。

「ごめん。ごめんね」

ごめんなさい。 

「許して」

ハクちゃんが苦しむって、分かっていたのに。
止めてって言えなかった。
私が『止めて』って言えば、ハクちゃんは自分を抑えられたのに。
私が……言わなかったから。
ハクちゃんは私を傷つけるのを、とても怖がってたのに……。 
 
抱きしめられて。
身体中が悲鳴をあげた。
すぐに、意識がぼんやりしてきて。
手も足も動かなくて。
だんだん感覚が……無くなって。
目を開けることもできなくて。
痛みを感じることすら、できなくなって……。

< 164 / 807 >

この作品をシェア

pagetop