四竜帝の大陸【青の大陸編】
運ばれた時はぐったりしちゃってたらしく、よく覚えていない。
私の濡れた服を着替えさせてくれたのは、多分カイユさんだと思う。
その時私に彼女が何か言ってたけど、うまく聞き取れなかった。
だから、取りあえず。
うんって、言っておいた。

翌朝。
鳥の声で目が覚めた。

「おはよう、りこ」

金の眼。
ハクちゃん。

「おは……ごほっつ!」

咽喉、痛い。

「りこ! すぐに医者をっ」

枕元に居たハクちゃんが、慌てたように言った。

「へ、平気。咽喉がちょっと痛いだけ。気分も悪くないし」

上半身を起こし、周囲を見回した。
漢方薬の匂いがする。

簡素なベットの周りは白いカーテンで囲まれていた。
まるで病室。
木のサイドチェストの上には水の入ったピッチャーと、ガラスのコップ。

「ハクちゃん、ここって」
「城の医務室だ」

そう言ったハクちゃんは。
パジャマを着ていなかった。
ちょっと、いや。
かなり残念。

「ハクちゃん、あの……え?」

ハクちゃんは。
枕元で正座をして。
私が使っていた枕の下から、赤いチェックの布を取り出した。

パジャマだ。
私の作ったパジャマ。

「りこ。これは返す」

小さな両手で、パジャマを私に差し出した。

「そう……」

仕方ないよね。
気に入らないなら。

「我はりこに褒美をもらうに値しない。だから、これはもらってはいけないのだ」

え?
もらっちゃだめって、なにそれ?

「ハクちゃん?」

正座をしたハクちゃんは。
眼を瞑って。

「今の我には、りこからぱじゃまを与えられる資格が無い。だが、だがっ」

パジャマをのせた小さな手が。
ぷるぷると、震えていた。

「だが、欲しい。とても、このぱじゃまが欲しいのだ。我はこれからもっと努力する、賢くなってりこの全てを護れるようになる! だ、だから」

ぎゅっと眼を瞑ってるのは、私の返事が怖いから?

「返したくはないが、返す! しかし、その、りこが我にご褒美を与えても良いと判断するその時まで、時間が長くかかるとしたらだ、その、ま、ま、ままっ」

まま? 
私は妻であって、ママじゃない……。

「ま、ま……前借を申請いたしたくっ! その、多少ずるになるが。我は、ぱじゃまが、欲しくっ、それでっ! ま、前借をっ」

ご褒美。
前借。
パジャマ。
それって……。

「ええっと、もしかして。パジャマを気に入ってくれたの?」

正座をし、土下座状態のハクちゃんは言った。

「喜びのあまり……脳は溶け、心臓は破裂した。臨死体験をしたぞ? かなり激しく内部が壊れたので復旧に時間がかかり、りこを迎えに行くのが遅れた。本当に、済まなかった。で、前借の件は……その、やっぱり駄目か?」

心臓破裂って?
リ、臨死体験……強くて脆い、不思議な貴方。
薄目を開けて。

「りこ」

金の眼が。
私を見上げた。

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