四竜帝の大陸【青の大陸編】
「旦那、何事ですか? ノックしても返事ないから心配したんですよぉって、お取り込み中でしたか! じゃ、失礼しましたぁ」

ダルフェ!
待て、待たんか!
おい、ちょっ……。

「た、助けてくれダルフェ!!」
「へ?」

緑の眼が見開く。

「だ、旦那が‘助けてくれ’!? う、嘘でしょっ?」
「……む?」

言った我も、少々驚いた。
我が助けを求めるとは。
が、細かいことを気にしている場合では無いのだ。

「りこが変なのだ。何を言っても泣くのを止めん。我はそろそろ限界だ、このままでは内臓を生のまま吐くぞ!」
「は? 内臓吐くって……あんたは蛙っすか!? 吐かんください!」

我の腹にへばりついて泣き続けるりこの姿にダルフェは眉を寄せ、足元に落ちているタオルに目を留めた。

「これ、血液っすね? まさか姫さんのっ」
「りこのものなら我が舐めている。これは我の鼻血だ」

りこの血液をタオルで拭き取るなど、もったいない。

「は、鼻血?」

ダルフェは恐ろしい物体でも見るかのように、タオルを凝視した。

「そう、鼻血だ。りこの頭突きをくらい鼻血が出た。りこは凄いだろう! この我に鼻血を出させたのだぞ? 衝撃的な痛みにぞくぞくした。もう少し強くして欲しいほどだ」

自慢した我に向けられた視線は。

「あんたやっぱ変。というか変態だな」
 
冷たいものだった。
何故だ?
最強竜の我に鼻血を出させるなど、とても凄い事ではないか!
四竜帝が全員で掛かってきたとて、我に傷1つつけられんぞ?
我の身体を傷つけることが出来るのは、小さくか弱いりこだけだ。
あぁ、我のりこは本当に凄いのだ。
 
「ダルフェよ。りこは最高の妻だな。今まで我の知らなかったものを与えてくれる。愛しい者と交わる快楽も、肉体を損傷する痛みも。ああ、我は幸せ者だ」

ダルフェは無言のまま血の付いたタオルを拾い、居間に向かった。
どうやら暖炉に火をいれ、タオルを燃やしたようだった。
足早に戻ってくると、壁にある排気装置を作動させた。
無駄の無い動作で天窓だけでなく、開けられる所は全て開け。
一気に下がった室温に、りこの身体が震えだす。

「りこが寒いだろうが。お前も仕置きだな、ダルフェ」
「は? 全く自分勝手ですねぇ、旦那は。……血ですよ、血液が原因です。換気したらすぐ閉めますから」

血。
我の鼻血か?

「む?」

そういえば。 
我もりこの血の香りで……。

「首かしげても、ちっとも可愛くないっす。逆に怖いんでやめて下さいよ」
「りこは人間だ。血の芳香に酔うなど……ん?」

人間。
人間?
微妙だな。

我の竜珠をその身に持ち、我の体液を注がれた肉体。
大量の気を与えられ……瞳の色が我と同じになったりこ。
まあ、我の思惑通りとはいかなかったが。

人間の枠から少々……かなりはみ出ているな。


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