四竜帝の大陸【青の大陸編】

53

薬草園は、私が通ってた小学校の校庭ほどの広さがあった。
色とりどりの花。
さまざまな形の葉。
奇妙な形の実。

『これ、ヤマモモそっくりなのに、サッカーボールの大きさなんて。よく木から落ちないよね』

私だけしか居ないから、日本語で喋った。
はやくこちらの公用語が喋れるようになりたくて、使わないようにしてたんだけど。
1人だから、いいかな~って。

薬草園の中央にある木に近寄り、下から見上げた。
私の腕では抱えられないような太い幹。
青い空に映える鮮やかな黄緑の葉が茂って。無数の巨大な実が……落下した実に直撃されたら、死んじゃいそう。
私は慌てて木から離れた。

『ヤマモモか……』

父の実家の畑には大きなヤマモモの木があって、毎年6月になると赤くてまん丸の可愛らしい実がたくさん採れた。
生で食べたり、ジャムにしたり。
今年も祖父と収穫して、2人でジャムをいっぱい作った。
祖父も私が行方不明になり、きっと……すごく心配してる。
3年前に祖母が交通事故で亡くなって、そのショックからまだ抜け切れていない祖父。

『……ごめんね、お祖父ちゃん。私の花嫁姿、楽しみにしてくれてたのに。披露宴で詩吟するんだって、毎日練習してくれてたのに』

ごめんね。
ごめんなさい。
私、この世界で生きていきます。
ハクちゃんの側で。

いつの日か。
私の命が終わったら。
魂だけになったらなら。
もとの世界に、家族のもとに帰れるのだろうか?

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