四竜帝の大陸【青の大陸編】

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我が転移した先は、ペルドリヌの王宮にある聖堂だった。

セイフォンの離宮と同様に白い石材のみで作られ、円錐型の天井を支える太い柱には過度な装飾が施されている。
金銀の彫金細工に色とりどりな貴石が無数に埋め込まれ、それが隙間なく柱を覆い下品な光を放っていた。
中央には祭礼用の純金製の台座が置かれ、絹布の上には赤子の頭程の水晶の珠。
板ガラスで作られた巨大なステンドグラスが最奥の壁を飾り、陽光に輝きながらペルドリの神を浮かび上がらせている。

「これが我だと? ……有り得んな」

白い髪に金の眼。
そして竜の翼を背に生やした異形の魔神。
しかも……頭部に、やたら長い角が2本ときた。

「……」

なんと阿呆らしい姿だ。
牛?
牛の親戚か?
我は牛ではないぞ?

このような化け物が、いるはずなかろうに。
人間の想像力とは、我には理解しかねるな。

「蛆よ、お前もそう思わんか?……む?」

軽いと思ったら。
我の右手に残っていたのは、蛆の頭部のみだった。
蛆よ、貴様……死んでるではないか!
この、根性無しめっ。
まあ、首から下を失えば普通は死ぬか。
頭部以外、どこかの空間に千切り取られてしまったようなので死んで当然だな。

……正直に言うと。
転移中に細切れになってもそれはそれで可、と考えていた。
経験者であるダルフェによると、転移中に肉体を損傷するのは通常時より痛みが増すらしい。
時間の感覚も狂うため、一瞬が永遠にも感じられるのだと……。

ーーあんたにゃ想像不可能な、この俺でも発狂しそうなとんでもない苦痛ですよ。

以前、恨みがましい目をしてそう言っておった。
つまり。
我が直に手を下すより、数段上の地獄を蛆は味わったということだ。
なので、良しとしよう。

実は……聡いダルフェも流石に気づいておらんので、黙っていたのだが。
我が転移に他者を同行させる場合、また他者のみを転移させるとしても。
どんな長距離移動だろうと、無傷で済ませることが我には可能なのだ……多分。
ようは【やる気】の問題だ。

基本的に、我は【やる気】が無く生きてきた。
【やる気】を知ったのは、りこに会ってからだ。
我がりこに長距離転移の術式を使わないのは、万が一の事を考えると試す気にもなれぬからであって……我は繊細で怖がりな男なので、そのような恐ろしい事は無理だ。
(そして泣き虫なのだと、りこが言っていたな)

【やる気】があっても全てがうまくいくわけではないことを、りこと出会ってから我は学んだ。
それまでの我は【やる気】などとは無縁だった。
そのせいか、どうにもうまく使いこなせてないのだ。


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