四竜帝の大陸【青の大陸編】
いつのころからか。
人間共は<ヴェルヴァイド>は禍々しい存在……魔王や悪魔などに当てはめるようになり、竜体の我……<監視者>とは別物だという考えが広まっていた。

一部の研究者達は<ヴェルヴァイド>も<監視者>も同一のものだと理解しているようだが、それを声高に叫んだりせず、沈黙している。
今の状態の方が人間共に都合が良いからだと、我は思うのだが。
<青>は異を唱えておったな。

ーーじじいが怖ぇーからに決まってんだろうが! 知れば知るほど怖くなって、黙っちまうんじゃね?

我としては、我のどこら辺がそんなに怖いのか分からんのだ。
長い間生きてきた我から見ても、<人間>が最も残虐な生物だったのだぞ?

我を恐れ嫌悪しながらも狂女のくだらん妄想を受け継ぎ、国を興すとは。
人間とは、まったくもって不可解な生き物だ。

「おお! <監視者>様! 御降臨なさって下さったのですな」
「……」

声は歓喜に満ちていた。
その男は跪き、言った。

「至高の神よ! お待ち申し上げておりました」

そう言って上げた喜色満面な顔は、次の瞬間には真っ青に変わった。

「ひぃっ!?」

我が右手の蛆、いや、もう蛆ですらない物体を家畜のような見てくれの中年男……教主に転がしたからだ。
蛆の親は蝿ではなく、豚だった。
まあ、蛆はすでに蛆ですらない状態なので豚でもかまわんがな。
ごろりごろりと白い床を汚しながら、転がったその物体。

「返す」

教主は蛆のなれの果てを凝視し、言った。

「こ、これが何か粗相をいたしたので? 末端の術士ゆえ、貴方様への信仰心が足りずご無礼を!?」

信仰心?
そやつの脳にそのようなものは、欠片も存在してなかった。
あったのは欲望だけだ。
手柄を立て金と地位を得たいという、ごくありふれた欲望だ。

「それは我の妻を侮辱し、手を上げた。つまりお前等ペルドリヌの民は神と崇める我に、唾を吐きかけたわけだ」

我の言葉に教主……剃りあげた頭に趣味の悪い金細工の冠をのせ、宝石をちりばめた純白の法衣に身を包んだ豚は、震えながら答えた。
歯が鳴る音が、耳障りだった。

カチカチ、カチカチ。

まるで、狂った時計のような音だ。

「ち、違います! 決してそのような意図はっ……異界の姫君を娶られたときき、祝いの品をお送りしたく姫君の好みなどを少しでも把握できればとっ」

喋りながらもカチカチと歯を鳴らす。
さすが二足歩行が出来る豚だ、器用なものだ。

「……我の妻に婚儀の祝いを?」

我の反応に冠を飾った豚は、急に生き生きと語りだした。
その目玉は輝き、まさに餌を与えらた豚のようだった。


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