四竜帝の大陸【青の大陸編】
りこ、りこよ。
我の、我だけの闇色の女神。

「……」

貴女は言った。
我が好きだと、大好きなのだと。

どんな我でも、側に置いてくれるのだろう?
どんな我でも、愛してくれるのだろう?


「教主よ。特別に我の妻が好きなものを、教えてやろう」

異世界から落ちてきた、我の宝物。
小さな花のような貴女。
我は貴女の虜。
もっと、もっと我を貴女に縛り付けて。

「おぉ、なんと光栄なっ! どのような宝飾品がお好みでしょうか? すぐに取り寄せ……」

「鱗だ」
「……は?」

我の手を、離さないで。
この手は、汚れているけれど。
そして、これからも汚れ続けるけれど。
 
「我の可愛いあの人は、鱗が好きなのだ」

我は、貴女を離さない。

「う、うろ……うろこ?」

我の言葉が理解出来ぬのか、弛んだ口角をひくひくさせて呟いた。
頭部だけとなった蛆のものと良く似た色の目玉を、忙しなく動かしてから我を見上げた。

「う、うろことは、希少な宝石の一種ですか? そ、それとも……ああ、珍しい果実ですかな?」

教主の言葉は、我を少々驚かせてくれた。
鱗も分からんのか、この男。
このような低脳が教主である宗教の神が、この我なのか!
最悪だな。

「鱗は、鱗だ。貴様は脳まで豚並みか、見た目通りだな。りこの世話は今後も、竜族に一任する。りこが竜族を気に入ってる限りな」
「う、うろ……鱗?」

愚かな人間共。
何故、分からない?
何故、気づかない?

「……りこがこの世界で憎んでいるのは、お前等人間だ。【世界】を奪ったお前等を、りこは永遠に許さぬだろう」

りこの意に反し、この世界に落とされてしまったからこそ、我はりこを手に入れることが出来た。
セイフォンの愚か者共には、その点は我とて感謝している。
そのせいで、りこの心の底には消せぬ【闇】が漂い続ける。

その【闇】は永久に貴女を苦しめ、泣かせるだろう。
だが。 
貴女の中にある【闇】は、我にとっては狂おしいほど……愛しい。

あの時、我には聞こえていたのだ。
貴女はこの世界を見捨て、我を選んでくれた。

そう。
真の魔王はりこ、貴女だ。
世界を滅ぼすのは、貴女。
<ヴェルヴァイド>は貴女の心にも潜む【闇】。

我は、貴女。


「り……り、り、りこ?」

豚の口からこぼれ落ちた、それに。
脳が指令を下すより早く、手が動き。

「ぐぎゃぁああああああああああああああっ!!」

豚の頭をもぎ取る。

返り血を弾く術式を使うことすら忘れたまま、豚の胴を蹴り倒し踏み潰した。



「その名は……<りこ>は夫である我だけのものだっ!!」



数分後、脳が正常に動き始め。


「……む?」


楽な死を与えてしまった事に気づき、後悔したが。
挽き肉となったそれを元に戻すことは、神ではない我には不可能だった。


 


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