四竜帝の大陸【青の大陸編】

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「ほら、<青>。【贈り物】だ。受け取れ」
「ん……じじい? うわっ!」

執務室にある長椅子でまどろんでいた<青>の腹の上に、我は贈り物を置いてやった。
せっかくの贈り物であるのに、<青>はそれを床に払い落としてしまった。
<青>の馬鹿が力を加減せずに払い落としたので、せっかくの贈り物は竜の腕力で床に叩きつけられ……半分以上、潰れてしまった。
目の前で贈り物を潰された我は、少々……いや、かなりがっかりした。
この我に‘がっかり’を経験させるとは……歴代<青>でもお前が初めてだぞ、ランズゲルグよ。
<青>が我からの贈り物を喜べば、りこが褒めてくれると考えていたのに。

「……っ!」

長椅子から身を起こし、潰れた贈り物を青い目で凝視する<青>には喜びの欠片も感じられなかった。


おかしい、我の想像と違うぞ?

「じ、じじい! これ、なんだよ? ってか、これ誰だよ! いったい何を仕出かしやがったんだ、ヴェル!!」

<青>は元の容姿が分からぬほど潰れた頭部から眼を離さずに、声を荒げた。

「誰だと? ペルドリヌの国王だ。お前が潰したから、顔が分からなくなってしまったのではないか。竜帝ともあろうものが自分の落ち度を棚に上げて我を責め……っ!?」

<青>の後ろにある窓から見えたそれに、我は言葉を失った。
ペルドリヌから術式で転移してきたので、空模様に全く気づかなかった。

雨。
雨が降っておるではないか!
我は昨夜、りこを先に風呂から出し、竜体でダルフェに天気予報を確認しに行った。

ーー明日っすかぁ……多分、晴れるんじゃないですかぁ? 今夜は見事な星空で、雲1つ無いですし。ま、俺の管轄は基本的に荒事ですから、庶務課に請求しなけりゃ手元に気象関係の資料なんざ回ってきませんしねぇ~。

南棟3階に、ダルフェとカイユは居を移していた。
竜騎士の宿舎は南棟から離れているために、カイユの強い希望でそうなったらしい。
荷解きの終わらぬ雑然とした部屋で、床に胡坐をかいて座ったダルフェの手元には小花模様の生地と、裁縫道具があった。
ダルフェは我の視線に気づき、垂れた眼をさらに下げた。

ーー姫さんのですよ。可愛いでしょう、これ? ふっふっふ……男の浪漫ですよねぇ~。

りこの新しいエプロンを縫いながら、ダルフェはそう言った。
はて? 
我はエプロンに浪漫など見出せないのだが……。


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