四竜帝の大陸【青の大陸編】
ーー旦那ぁ、今夜は姫さんに手ぇ出さんで下さいよ? 一応、病み上がりだってことをお忘れなく。……俺の貸した本を熟読して、お勉強しといてください。俺が思うに、あんたはあの子に関しちゃ変態の域に達してます。しかもあんたのつがいへの執着は、竜の俺から見てもちょっと異常ですしねぇ。変なことして、姫さんに嫌われたくないでしょう? あんたら2人の痴話喧嘩は周囲にとっちゃ、隕石級の大迷惑なんです。
 
我が変態?
それに……変なこととはどういう事なのだろう?
抽象的に言われても、我にはさっぱり分からんな。
エプロンの浪漫といい……ダルフェの言うことは時々、我には少々難解なのだ。


「…………」


「おいっ! 俺様の話を聞け、クソじじい!」

昨夜のことを思い出していた我に、<青>が声を荒げる。
<青>は立ち上がり、潰れた贈り物を跨いで我に近寄り……りこが女神のようだと賞賛した顔を歪めた。

「あ~あ……全身、返り血だらけじゃねぇか。こんな、こんなの……らしくねぇよ、ヴェル。ほら、こんなとこまで」

包帯に包まれた指が我の顔に伸び、右目の下に触れた。

「ヴェル……」

我はちびな<青>を見下ろし、聞いた。

「何故、喜ばん? ペルドリヌの当代教主の首だぞ? ぶち殺したいと言っておったではないか」

我の疑問に<青>は答えなかった。
ただ、唇を噛みしめただけだ。
<青>は無言で我の右腕を掴み、執務室に隣接する私室に我を連れて行くと浴室に押し込んだ。
そして、音を立てて浴室の扉を乱暴に閉めた。
常より大きい足音が、徐々に遠ざかり……どうやら廊下を駆けていったようだ。

「……」

ふと、備え付けの鏡に自分の姿が映っていることに気がつき。
何故ここに押し込まれたか、理解した。

我は、非常に汚れていた。
しかも、臭い。
我が汚く臭いから、<青>はあのような顔をしたのか?
 
「……なるほどな。<青>は綺麗好きなのだな、きっと」

だから贈り物を喜ばなかったのか、確かにあれも汚かったな。
豚教主の頭部は。
とても汚かった。
 

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