四竜帝の大陸【青の大陸編】

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竜帝さんは、ハクちゃんに頭を掴まれた状態で現れた。
見てるこっちが悲鳴をあげるほど乱暴に放り投げられたのに、いつもは機関銃のように捲くし立てる彼が文句のひとつも言わなかった。
厳しい表情でダルフェさんに何か言い、竜帝さんに気づき起き上がろうとしたカイユさんの動きを視線だけで止めた。
包帯で包まれた指で、そっとカイユさんの額に触れると……。
カイユさんの水色の瞳が、ダルフェさんを見ながらゆっくりと閉じ。
何か言いたそうに唇が動いたけれど、言葉にはならなかった。

力の抜けたカイユさんの体をダルフェさんが慎重に抱え上げ、部屋から出て行った。
私も廊下までは、一緒に行った。

ハクちゃんがそこまでなら良いって、言ってくれたから。
つまり、それ以上は駄目ってこと。

ハクちゃんに術式で送ってもらったほうが……と声をかけた私に、ダルフェさんは苦笑しながら首を振った。

ダルフェさんとカイユさんを見送った後に竜帝さんが話してくれたこと、教えてくれたことは。
この世界が『御伽噺みたいな夢の国』なんかじゃないことを、私に改めて突きつけた。

戻ってきたハクちゃんは私にお菓子を食べさせたかったみたいだけど、どうしても食べる気になれなくて蓋付きの保存容器に移して戸棚にしまった。
しまう前に、竜帝さんに「食べますか?」って聞いたけど。

彼は「食えない」って言った。
食べたくないんじゃなくて、「食えない」って……サファイアのような瞳を天井に向けて、そう言った。

ハクちゃんはあ~んができなくて、ちょっとだけ不満そうだったけれど。
特に何も言わなかった。
竜帝さんがカイユさんのことについて話をしてくれている間、私の足元にぺたんと座り。
ソファーに座った私の膝を枕にして、眼を瞑っていた。
竜帝さんの話には、全く関心が無いようだった。
竜帝さんが帰るまで一度も眼を開けず、声を出すことも無かった。
大人しい大型犬のようなハクちゃんの髪を撫でながら、私は竜帝さんの話を聞いた。

涙を我慢できたのは、ハクちゃんの髪の優しい感触のおかげだったのかもしれない。

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