四竜帝の大陸【青の大陸編】
「…………」
「えっと、その……ハクちゃん?」

ハクちゃんの顔に視線を向けると。
ハクちゃんの眼が、点になっていた。
まさに、点。
金の眼の中にある縦長の黒い瞳孔が、点状態になっていた。

「……」

ハクちゃんは固まってしまった。
イメージぴったり、まさに氷の彫像のように。
瞬きすら止まり。

無言。

嫁の変態さに、びっくりして……ショックを受けちゃったとか!?

「だ、大丈夫? ハクちゃ……うぎょっ!?」

ハクちゃんの両腕が私の身体を強く。
今までで、一番強く。
背骨が折れちゃうんじゃないかと思うくらい。

強く。
強く、抱いてくれた。

ああ、私。
貴方にこうして……ぎゅって、してもらうと。

身体の奥から、じんわりと何かが沸いてきて。
あたたかいもので、満たされるの。
暖房が無くても。
貴方のかけらを口にしなくても。
貴方のその冷たい身体が、私を内側からあたためてくれる。

「あのね、ハクちゃん。私の国では……手が冷たい人は、心が温かい人だって言われてるの」
「……」

返事はかえってこなかった。 
ハクちゃんはずっと無言のままだった。
いつものような、奇天烈謎発言も無く。
私を抱いて、黙ったまま……まったく動かなかった。
ハクちゃんの胸で、私は眼を閉じた。
私だけが知っている(と、思いたい)優しく甘い香りに包まれて……。

どれくらいそうしていたのか。
いつの間にか。
部屋が淡いピンクに染まりだし、夕焼けが始まったのだと知った。

「……その扉の向こうに、露台がある。狭いがな」

ハクちゃんはゆっくりと私を離して、立ち上がった。

「そこからの眺めが見事だと、カイユの母は<青>に言ったのではないかと……多分な。我は夕陽を観賞しようと思ったことが無かったので、断言できぬが」

そう言って。 
私に右手を差し出した。

「手を。……行こう、りこ」

初めて。
初めて、貴方から。
 
私。
貴方と手を繋いで歩きたかった。
普通の恋人同士みたいに。

「……はいっ!」

私と貴方は、繋がれる。
それは身体だけじゃなく。

触れ合ったそこから、何かが生まれていく。
私にはまだ、うまくそれを言い表せない。 
愛とか恋とか情とか……どの言葉が一番いいのか分からない。
どれか一つなんて、決めなくていいのかもしれない。
それは、とてもあたたかで……。

「りこ、手が常より熱いぞ? 頬も赤いな……まさか、風邪か!?」
「違うよ。……ちょっとのぼせちゃったというか。あったまり過ぎちゃっただけ!」

ほらね?

貴方の冷たい身体に触れていると。 
私の身体は熱くなる。




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