四竜帝の大陸【青の大陸編】
 鯰給餌用の備品が届いた。
 我のりこが鯰の餌にまみれるという惨劇から、既に3日が経っていた。

 <青>の指示でそれらを持参したヒンデリンが、見慣れぬ衣装に戸惑うりこに手際良く装着し。
「特注で作らせましたので、時間がかかり申し訳ありませんでした」
 そう言うと一礼し、足早に去っていった。
 我がりこに向けた視線を見て、長居は無用と判断したのだろう。
 
「ハクちゃん、やっぱり変? ううっ、それにちょっと重い……鏡を見てくる。ハクちゃんは、ちょっと待っててね」

 温室には鏡がない。
 りこは不出来な自動人形のような動きで居間へと向かった。
 我は池の淵に座り、りこを待つことにした。
 全てはりこの反応次第なのだから。

 我の足元にある鯰の餌が入ったバケツは、特注の蓋でしっかりと封がされているので悪臭はしない。

 悪臭。

 最初にこの物体が運ばれた時、我とて臭うとは思っていた。
 だが、その臭いが悪臭かどうかという判断が出来なかったのだ。
 初めて経験した異様な臭いだったために、どう反応するのが‘正しい’のか分からなかった。

 数分でりこは戻ってきた。
 普通のものより柄が3倍程長い柄杓を右手に持ち、弾んだ声で言った。

「ハクちゃん! すごいね、これ……ダース○ーダーみたいっ!」

 どうやら気に入ったようなので、我は<青>に仕置きをするのを止めることにした。
 <青>が用意したものは。
 赤の大陸にあるドラーデビュンデベルグ帝国の特殊部隊が使用する、軍事用マスクだった。
 シュノンセルの城にある竜宮に滞在していた折に、我は同じ物を見たことがあった。
 これを装着した人間共がやってきて、我に化学兵器を使ったのだ。
 どうやらシュノンセルの夫が指示したことらしかったが……。
 残念ながら。
 我は特に、どうということも無かったな。
 効果があれば面白いと、少々期待しておったのに。

 まあ……つまり。 
 飼料の悪臭どころか有毒ガスや細菌兵器に対処するものであり……黒光りするそれはりこの頭部をすっぽりと覆っていた。
 <青>よ、お前は何故このような物を持っているのだ?
 ああ、なるほど……伝鏡石か。
 鉱山での採掘作業に、性能の良い防毒マスクが必要なのであろう。

 
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