四竜帝の大陸【青の大陸編】

SS~パスハリス~

「僕達からって渡すの?」

 緋色のリボンと花柄の包装紙で飾られた贈答用の菓子箱。
 これは、僕とオフもお気に入りの菓子屋のだ。
 陛下の両親が始めた小さな菓子屋。
 今は弟子が継いでいて……帝都で人気の菓子屋だ。

「うん、そうして。成竜の雄である僕からより、君達からだってことにしたほうがいいんだよ。 ……パス達にもお駄賃として、同じものを買ってきてあげたじゃないか。何かご不満でも?」 

 昨日の【狩り】は午前中に終わった。
 制服を返り血で汚してしまった僕たちを先に帰して、セレスティスさんは買い物に行った。
 食堂で昼飯を食べてたら、おみやげだよって同じのをくれた……こんな洒落た包装はされてなかったけどさ。

「あの方には……あのお二人には近寄りたくないんです」
 
 オフランが差し出されたそれを見ながら言った。
 よし、いいいぞ!
 受け取ったら、終わりだからな!

「ふ~ん、そう。僕の頼みを断るのかい?」

「ぶぐっ!?」
「げぐっ!?」

 僕とオフは、背中の真ん中を蹴られた。
 手加減してくれたから、骨まではいってない。

「さあ、いってらっしゃい。渡したらすぐに帰っておいでね? 今日は西街に【狩り】に行くんだから」

 整った顔に、年中無休で穏やかな笑みを浮かべる前団長。
 肩のラインで切り揃えられたまっすぐな銀の髪に、水色の瞳。
 セレスティスさんは、城内好感度NO1の竜騎士だ。
 城の雌竜の間では[つがいに出会う前に抱いて欲しい雄・第一位]に10年連続で輝いてるらしい。
 頭も良いし、腕もたつ。
 穏やかな口調に、優しい微笑み……理想の王子様なんだってさ。
 阿呆くさっ。
 見た目にだまされてんだよ、みんなは。
 ほんと、そっくりな親子なんだよ?
 カイユさんとセレスティスさんは。
 見た目も中身も……蹴りの角度まで同じだし。
 まあ、どっちがより怖いかっていえばカイユさんだけどね。
 ほんと、物騒でおっかない親子。
 
 でも。
 この方よりはまし、ずっとまし。

「こんにちは。ヴェルヴァイド様、奥方様」

 南棟の庭園に置かれたベンチに腰掛け、色づいた木々から落ちる葉を眺めている2人に3ミテ手前まで近づいた。
 そんでもって、とりあえず挨拶をしてみた。
 奥方様は返事を返してくれたけれど。
 膝の上に座っている白い竜は、特に美人でもない奥方様を見上げたまま動かない。 
 細められた金の瞳。
 なんだって、あんな恐ろしい目付きで奥方様を睨んでるのかな?
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