四竜帝の大陸【青の大陸編】
 ああ、睨んでるわけじゃないのか。
 奥方様はにこにこしてるもんね。

「これ、あげる。南街にある菓子屋ので、僕達もお気に入りなんだ」

 奥方様が立ち上がる前にささっと、ベンチの空いている部分にすばやく置いた。

「ありがとう。パスハリス君、オフラン君」

 名前。
 覚えてたんだ。
 しっかし、地味な女だよね~。
 昨日の帰り道で見かけた人間の女のほうが、ヴェルヴァイド様に似合いそうだったな。
 なかなかお目にかかれないような美女だった。
 美女もどきの陛下と違って、本物の美女ってやつだね!
 胸のでっかさを強調したドレスが、嫌味にならず似合ってた。
 あれは観光に来た貴族のお嬢様だ……かなりの上位貴族。 
 術士と武人の護衛が付いてたし。

 今……頭の中、視られてないよね?
 必要な場合以外は、他人の思考をよんだりしないって陛下が言ってたし。

「これからお茶の時間だから、お部屋に来ない? 竜帝さんも来るし」

「あ~、うん。ごめんなさい。僕達、仕事中だから無理」

「じゃあ、また今度。お休みの時にでも……」

「そうさせてもらうね。奥方様、誘ってくれてありがと!」

 行くわけないじゃん。
 阿呆だな、この女。
 あの人のテリトリーに入るのは、遠慮したいんだよ。
 はっきり言って、今だって限界に近い。
 オフなんか、喋る余裕すらない。
 こうして耐えていられるのは、あんたの膝にいる白い竜が僕達を無視してくれてるから。
 透明感の無い金の眼が、僕たちには全く向けられていないからなんだ。
 
「あ! 私ね、温室の池で鯰を飼い始めたの。ナマリーナって名前で、とっても不細工で可愛いのよ? 興味があったら、いつでも見に来てね」

 なんだよ、突然。
 ああ、話題が無いからか。
 鯰?
 ああ、こないだ陛下と取りに行ったっけ。 
 不細工で可愛い?
 あの鯰をペットにしたの?
 僕は鯰なんか見たくない、食べるの専門だ。
 やっぱ変な女だなぁ、しかも異世界人だしさ。
 異界人。
 なんか、気持ち悪いんだよね。
 人間の皮を被った謎の生物って感じだ。
 必要以上に関わりたくない。

 ヴェルヴァイド様は純粋に‘怖い’だけ。
 だけど、この女は。
 この異界人は‘怖い’だけじゃない。
 嫌悪感?
 なんだろうこれは。

 まあ、でも。
 この女のおかげで【狩り】が楽しめてるんだよな。
 最近は、毎日とっても面白い。

「じゃあ、またね。ほら、帰るよオフラン!」


 さあ【狩り】に行こう。
 このお祭りは期限付き。
 だから、今のうちにいっぱい楽しまなきゃね! 
  
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