四竜帝の大陸【青の大陸編】
だから我は[人間にとって美しいと感じられるであろうもの]を差し出すしかない。
りこがこの世界をもっと、もっと欲しがってくれるように。
異界人のりこも、夕焼けを綺麗だと言った……やはり、美意識や感性はこの世界の人間や竜とほぼ同じだと確認できた。
我の竜体に強い執着を持つからといって、りこは美醜に関して特殊な嗜好を持っている訳ではなかった。

我は今後もりこが美しいと、綺麗だと感じるものをもっと見つけなくてはならない。
それらでりこの周りを埋め尽くし、『りこの好む世界』を貴女のために用意したい……それなのに我は。

我が染め上げたりこの眼を、いっそう美しく染め変えてみせた沈む陽が憎らしく。
りこに綺麗だと讃えられた夕焼けが、妬ましかった。

夕陽など、二度と見せたくないとすら思った。

りこは我に感情を……心をくれた。
この我の心は。

美しさなど見当たらず、綺麗なものでも無かった。
それでも貴女に、我の心を欲しがってもらいたい。

澱んだ沼の底に溜まった汚泥のような、この我の心を。







最近のりこは【お勉強】で、日々忙しそうだった。
早朝散歩に使っていた時間も【お勉強】に変わり、夜も必ず【お勉強】をしてからでないと床に入らない。
そして今日は【まとめの試験】なるものが午前に行われ、先ほど返却された。
昼食時に自信が無いと言っていたりこだったが、シスリアから追加の課題と共に手渡された用紙を確認し……口が少々、開いてしまっていた。
どうやらりこの想像以上の結果が出たようだった。
シスリアが学習院に戻っている数日間、勉強会が休みになるのでしっかり復習しておくようにと言われ何度も頷いていた。
南棟の2階に用意された学習室から部屋に帰ってくると、我を抱きかかえたまま寝台に駆け寄り勢いよく倒れた。
いつもは午後の勉強会の後、そのまま<青>の執務室に茶を飲みに行くのだが。

「書き取り試験、駄目だった……」
 
試験。
試験と茶に行かんのは、どう関係するのだろうか?
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