四竜帝の大陸【青の大陸編】
「会話試験はとっても良かったって、褒めてもらえた。でも、書き取り試験が……シスリア先生が出題する単語が聞き取れても、書けなくて。綴りがきちんと、覚えられてなかった。やっぱりなって、感じだけど」

りこは寝台に寝転び、胸に抱いた我の背をゆっくりと撫でた。

「短期間で驚くくらい……不思議なくらい、喋れるようになったから。私でも頑張れば、やれば出来るんだって嬉しかったんだけどな。うぅ~、書き取りは50点満点中6点。人生最低点を取っちゃった」

我はりこの胸に耳をつけ、心臓の音を聞いた。
規則正しく打つそれと、我を撫でる手の動き。

ああ、なんと心地良いのだろう。
りこはこうして‘素敵’なものを、我にたくさん与えてくれる。
我もりこにもっと与えてやりたい。

「とにかく喋れないと困るから、セイフォンでもセシーさんにお願いして会話優先にしてもらってたし。文字を後回しにしすぎちゃった……ううっ6点、6点かぁ~。竜帝さんの所には、気持ちを切り替えてから行かなきゃ……」

点数。
りこは6点。
我もりこのやっていることを体験してみたいと思い、竜体のまま試験を受けてみた。
まあ、無意味な会話試験には参加しなかったが。
会話試験か……。
りこは気づいておらぬようだが。
あのシスリアという雌は、会話に関しては試験をしたのではない。
あれは[確認]だな。

「りこ、りこ! 我は50点だった。我の点数を全部りこにやる。そうすれば56点で満点を超えるぞ?」

我ながら、良い考えだ!
りこの『足りない』を夫である我が補う……。
いろいろ『足りない』我がりこの『足りない』を補えることなど、めったに無いぞ!? 

「56点って……ハクちゃん、それじゃあ試験の意味が無くなっちゃうでしょう?」

試験の意味?
高得点を取る事ではないのか?

「気持ちだけ、もらっておくね。ありがとう、ハクちゃん」

気持ちをもらう?
ダルフェ同様、りこも時々難しい言い回しをするな。
でも、りこが微笑んでくれたので良しとする。

「うむ。では、今後も我の気持ちは全部りこにやる」

顔をあげ、りこに接吻した。
竜体の我に接吻されるのを、りこは非常に好む。

りこの鼓動が大きく跳ねた。
微かな振動が、触れ合った身体に伝わってきた。

「……りこ。満点を取った我に、ご褒美をくれるか?」

4本指の手を、りこと同じ5本の指を持つ手に変えて。
一瞬硬くなった細い体を、逃がさぬように抱きしめた。
何か言おうと動いた唇を塞ぐように口付けると、躊躇うかのようにおずおずと。
りこの両腕が我の身体に伸ばされた。
背に触れる……小さな手の、あたたかで柔らかな感触。

「先ほどのように……もっと撫でて、りこ。もっと我を、愛でてくれ」
「ハク……」

欲情という言葉の意味を。
我はりこと会ってから、正しく理解した。


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