四竜帝の大陸【青の大陸編】

81~花鎖・前編~

「りこ?」

隣に座った我に寄りかかったりこからは、規則正しい呼吸音……寝たのか。
寝ているりこの手は、膝に乗せた作りかけの<花鎖>を大事そうに持っていた。
この<花鎖>は、明日の夜に使う。
春告げの花と呼ばれるクラックの黄色い蕾が、解け始めた雪の間から姿を見せたと観察官から知らせが入った4日後に城で、舞踏会が行われる。
それに参加するために、必要なものなのだ。

気に入りの場所である温室の長椅子で作業を開始し、休憩もせず夢中で手を動かしていた。
昼食後にはじめた<花鎖>を編む作業は、すでに2時間。
りこが寝入ってしまうのも、無理はない。
今日の午前に行われた書き取りの試験に備え、昨夜は常より遅い時間まで机に向かっていた。

朝も早めに起床し[お勉強]をしていたのだから。
このまま寝かせてやろう。
カイユが茶を持って現れたら、起こしてやればよい。

試験勉強……それをしている時のりこは、我の相手をしてくれない。
試験勉強は、我からりこを奪う。

我は試験勉強なるものが、嫌いになった。

帝都に移り、3ヶ月。
りこの強い希望により文字の習得に重点をおいた授業が行われ、当初の予定と違い月4回の頻度で試験が行われるようになっていた。
つまり。
試験勉強の時間は、我の想像以上に増えてしまったのだ。

我は試験勉強なるものが、大嫌いになった。

本人には言っておらぬが、言葉は苦労して学ぶ必要性が(我の所為で)あまり無くなっていた。
文字や知識は確かに[お勉強]しなければ身につかぬが……それらが必要な時は、我を頼れば良いのだ。
まあ、我とて世情には疎いが……<青>が言うには我はある意味『箱入り』なのだそうだ。

箱入り?
我は鍋に入ったことはあるが、まだ箱に入った経験は無いのだ。
  
それはさておき。
りこがそのように苦労し、学ばなくとも常に我が側にいるのだ。
我を使えば良い。
だから試験を失くせ、もしくは減らせ。
我はダルフェに先日、そう言った。
返ってきた答えは、我の望んだものではなかった。

ーーああっ!? 餓鬼か! あんたねぇ……あの子が必死こいて勉強してる理由、分からねぇんですか?
 
日常生活において、文字が読めぬと不便だからだろう?
先日も調味料を間違えて、慌てておったしな。
 
それに、魔女に出した手紙が赤字で添削されて帰ってきたのだ……魔女めっ。 
夫である我は1通もりこからの[お手紙]を、もらったことなどないというのに。
 
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