四竜帝の大陸【青の大陸編】

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汚れた手袋は捨てた。
 
「……ったく、何も無しか」

術士は俺が知りたいことを、吐かなかった。
吐かなかったんじゃなく、吐けなかったが正しいか……。
知らないんだから、言いようがねぇな。

雇い主の名前は口にしたが、分りきってるそれに興味なんかない。
欲しかったのは竜族から竜珠を盗む<珠狩り>の奴等の情報と、尻尾すら掴めない<導師>の事だ。

陛下は旦那についこないだも、めげずにまた協力を求めたが……あっけなく断られてたっけ。
旦那を動かすには姫さんを‘使う’のがてっとり早く確実なんだが、陛下はそうはしなかった。

もし、陛下が。
四竜帝が竜族のために、あの子を使ったら。
旦那は……。

「ダルフェ、行くわよ。あそこにいる獣達が死肉を待ってるわ。餌が少ない時期ですもの、じらしちゃ可哀想」

雪の壁からこちらを見下ろす、数頭の狼。
頭の良い動物だから、俺達が立ち去るのを大人しく待っている。

「ああ、そうだね。しっかし、10年以上追っかけて、こうまで結果が出ないってのは……」

皇太子達が出てこれないように外から施錠した馬車を流し見て、カイユは苦笑した。

「……仕方ないわ。簡単には辿り着けない。だから陛下は贔屓にしているあれまで【餌】にした。あの方の性格にしては、思い切った選択だっだわ。あの子……陛下なりに、必死なのよ」
「陛下なりに……か。ハニーは陛下にゃ甘いからなぁ~、妬けちゃよ」

陛下の両親は、陛下が幼竜の時に死んだ。
親同士が親しかったため、城の宿舎に住んでいたハニーの両親が面倒を見てやっていたらしい。

幼い時を、共に過ごしたせいだろう。
当代陛下に、姉のような……家族のような感情をカイユは持っている。
カイユが<青の竜帝>を<主>としているのは、竜騎士だからじゃ……強者への恐怖心なんかじゃない。

俺のアリーリアは、<ランズゲルグ>を守るためなら喜んで命を捨てるだろう。

「私には父も子供達もダルフェ……テオ、貴方もいる。陛下は……<青の竜帝>は‘独り’で立たなくてはいけない。優しく哀れなあの子の変わりに、私があの子の敵を狩る。約束したの……カッコンツェルと」
「カッコンツェル? 誰、それ?」
「……私の初恋の人」

寂しげな笑顔を浮かべた顔に手を伸ばし、引き寄せて唇を合わせた。
他人の目のある所では、唇にはしない。 
でも、死体だったら目が開いてようが見えないしな。

「ふ~ん。そいつ、もう死んでる? ……だったら殺す手間が省けるんだけどなぁ」

唇を触れ合わせたまま、言った。

俺は。

竜の雄は。
死人にさえ、嫉妬しちまうんだ。
ここで今すぐ君と繋がり、俺への想いを確かめたいほどに。

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