四竜帝の大陸【青の大陸編】
唇への接吻は。
『貴女が欲しい』というサイン。 

「テオ。大人気ないわよ?」
「アリーリ……ぐげっ!?」

唇への懇願に、返ってきたのは腹への膝蹴り。

「まったく。竜の雄はこんなんだから、私達雌が‘強く’ならざる得ない。ほら、さっさとしなさい役立たず……あそこを踏み潰すわよ?」

黒光りするブーツの踵がカツンと、石畳に強く当たって音を立てた。

「君になら、喜んで」

跪き。
愛しい人の手をとり、指先に口付けた。

「……馬鹿な人」

俺の心が狭いんじゃなく。
竜の雄なんてのは、そんなもんだ。
愛した雌に全てを持っていかれちまう。
心も、身体も。

全て……総て。

本当は。
君を放したくない。
どこまでも、どこまでも。
君を一緒に連れていってしまいたいんだ。

格好つけて、強がって。
独りで逝くって、決めたけど。

ねぇ、旦那。
俺は意気地無しだから。
あんたみたいに、なれないんだよ。

子より、俺を選んでなんて。
怖くて。
そんなこと怖くて、俺には言えないんだ。

昔。
ブランジェーヌの膝で丸くなって、俺が昼寝するような歳……幼竜の頃。
竜族の個体減少の一因には雄が持つ雌への‘狂気‘もあるのかもしれないと、黒の爺さんが電鏡で母さんに言ってたっけ。
そんときゃ餓鬼だったからピンとなかったけど。
 
「愛してる、カイユ」

今の俺は、爺さんの意見に素直に頷ける。
 
「俺の、アリーリア」

慈しんでくれた両親よりも、血を分けた我が子よりも。
 
「……アリーリア。君を、誰より愛している」

細い腰に両腕を巻きつけるようにして、顔を押し付けた俺に。
アリーリアはそっと……優しく髪を撫でてくれた。
 
「そんなの、知ってる。嫌ってほど……分ってるわ、テオ」 

雄は、雌が全てだ。
だが、雌はそうじゃない。

俺の髪に触れる君のその手を、独占したいと。
この、胸の……心の奥で。
ダルフェではなく、テオが吼えているんだ。

それは、永遠の恋心。

君が、俺の全て。



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