四竜帝の大陸【青の大陸編】
「さぁ~て、ぼちぼち出発しようかねぇ」

俺の……竜騎士の制服の内ポケットには、新しい手袋がいつでも2組しまってある。
御者台に戻り、予備の手袋をはめて手綱を握った。

カイユは俺の隣に腰をおろした。
軽く膝に添えられたその手にも、真新しい白い手袋。
この手袋は人間と違い、防寒の為なんかじゃない。
竜騎士をやってると、手袋は1年中必需品だ。
汚れ仕事が多いからな。
特に雄は雌よりも、手が汚れることに対して嫌悪感が強い傾向がある。
雌に強い執着・独占欲を持つ竜族の雄は、愛しい雌に触れるその手が他者の体液で汚れるのを嫌がる。
旦那が蜥蜴蝶で作られた外套を羽織り、手袋をはめながら現れたあの時。
狩りを……自分の手で殺しをする気だと覚った。
手を使わずになんでもぶっ壊せる人が、手袋をした。

それは警告じゃなく、宣告。

オフとパスは殺され、姫さんに手を上げた術士とその関係者も……国も土地も、この世界から消え去るんだと俺は思った。
蜜月期の雄は、雌に関する事には理性なんて吹っ飛んで当り前だからな。
だが、想像していた以上に旦那は冷静に動いた。
かなり‘我慢’したんだろうが。

怒りを抑え、姫さんの事を考えてあの『結果』を選んだ。
普通の竜族では考えられない、本能を越える強い理性。
あの<ヴェルヴァイド>に、それを与えたのは異界の娘。

陛下が望んだ通り。
あの子は<ヴェルヴァイド>から……最凶最悪の竜から、この世界を守るだろう。
旦那はあの子の為に【世界】を維持し続ける。
花も菓子も、ドレスも。
姫さんが好きなものや、生きるのに必要なものを。
その全てを魔法のように無から取り出し、旦那が与えられるわけじゃない。

<りこ>が存在する限り、<ハク>は世界を放棄しない……出来ないんだ。
たった1人の女の為に。
この世界が旦那にとって、無くてはならないモノになった。



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