四竜帝の大陸【青の大陸編】
「カイユ……私の母様」
「…………ッ」

カイユさんはそっと私の手を髪から外して、立ち上がった。
そして水色の眼で数秒間、白い手袋をした自分の両手を見た。

澄んだ冬の空から、お天気雨が降って。
白い手袋に落ちた。

「……私」

昨日から、私の前でもずっとしていたそれは。
ポタージュを温めるときも、髪を拭いてくれるときもしたままだった。

ハクちゃんが手袋をしていた時のことを思い出した。
白い手袋は、あの時は私からハクを……今はカイユさんを遠ざけてしまう気がして。

「貴女のお側にいる時は」 

ちょっと、寂しくて。
悲しくなってしまう。

「<青の竜騎士>ではなく、私は‘カイユ‘です」

そう言って。
手袋を外しながら微笑んだ。

カイユさんは私を見てくれた。
その濡れた水色の瞳の中で、私がゆらゆら泳いでいた。

ゆらゆらして見えるのは、私も泣いているからだと。
私の頬をそっと舐める、ハクちゃんの温かな舌が教えてくれた。

この涙の味を、ハクちゃんは口にしなかった。
言わないでいてくれて、ほっとした。

「……ありがとう、ハク」

この涙は。

きっと。

少しも、甘くはなかったはずだから。
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