四竜帝の大陸【青の大陸編】
椅子が用意されているのに、誰も座らない。
私一人が座っているこの状況は、想像以上に居心地が悪かった。
人数分の椅子は単なる‘お飾り’。
直ぐ退室する。
長居はしない。
それを示すため……ハクちゃんへの配慮らしい。

前もって女神様が「慣れろ」って言ったけれど、やっぱり…うう~、慣れそうにありません。

「お、お久しぶりです。ダルド殿下、ミー・メイちゃん」
「トリィ殿。お元気そうでなによりです」

ダルド殿下の表情は硬かった。
ミー・メイちゃんは俯きっぱなし。

テーブルを挟んでるから5メートル以上距離をとって立ってる殿下達と会話って、そうとう微妙だった。
私はセイフォンでの待遇、援助のお礼とかを言いたかったんだけど口にしなかった。

ダルド殿下が来る30分位前に竜帝さんが部屋に来て、すべきで無い事の他に言うべき事・言う必要の無い事を私に教えてくれてた。
女神様は私が謙った態度をとったら、ハクちゃんがどう思うか・感じるかを忘れるなと言った。

挨拶の時に頭を下げるのが謙った態度と言われても、日本人の私としては挨拶とセットといいますか……無意識にやってしまいそうでちょっと不安。
私に抱っこされっぱなしのハクちゃんだけど、今のところ不満は全く無いみたいだった。

どちらかというとさっきから妙にご機嫌で、尻尾をゆらんゆらんと楽しげに動かしていた。

「りこ」

きゅっと握ってまん丸になった両手が、私の左右の肘をぽんぽんと軽く叩いた。
私は膝に座ったハクちゃんを、無意識に抱え込むようにして抱きしめていた。

「あ……ごめんなさい。苦しかった?」
「いや。我はりこの‘ぎゅっ’が好きなので問題無い。もっと‘ぎゅぎゅっ’とされたいぐらいなのだ」

私を見上げる金の眼が、くるんと回った。
このお目々の感じは……うん、良い感じだと思う。
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