四竜帝の大陸【青の大陸編】
俺はおっさんを殴りに行かなかった。
おっさんの追加分は‘貯金’しておくことにした。

セレスティスの部屋は2階の一番奥に位置していた。
装飾の一切無い木製のドアを開けて、セレスティスは手招きした。

「どうぞ。……ごめんね、お茶は切らしてるんだ」
「いえ、おかまいなく」

初めて入ったその部屋は、えらく殺風景だった。
向かって右の壁に、扉が一つ。
多分、クローゼットだな。

かなり広い部屋なのに、向かって左の壁際にベッドと本棚があるだけだ。
ベッドの上には、セレスティス愛用の刀が無造作に置かれていた。
それだけが、ここの全てだった。

「座るとこないから、ここにどうぞ」

ベッドに座ったセレスティスは、自分の隣をぽんぽんと軽く叩いた。

「ここでいいです」

俺はセレスティスの前に立って言った。
舅殿とベッドに並んで座るなんて、嫌だっつーの。

「お互い忙しい身ですから、さっさと済ませましょうや。で、旦那と話したんでしょう? どうでした?」
「う~ん、あの人ってかなり面白いね。想像してたのと違ってた」

あの旦那を‘面白い’か。
ハニー、君の父親はすげぇなぁ。

「おちびちゃんは、まだよくわかってないみたいだね。まぁ、無理ないかな」

セレスティスは頬に流れた銀の髪を耳にかけ、笑みを深くした。

「<監視者>のあれは、単なる嫉妬だね。……この世界の秩序や善悪がどうなんてご立派なものじゃないぶん、たちが悪い。まぁ、僕的には大歓迎だけど」
「嫉妬……ね」

姫さんは、皇太子を恋愛対象と見ていない。
旦那だってそれは充分に分かってるはずだ。

分かっていても、どうしよもない……それが竜の雄なのだから。
姫さんへの旦那の執着は、竜のそれを越えちまってる感があるけどな。


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