四竜帝の大陸【青の大陸編】
俺はつがいを探す気が無かった。
こんな俺だから、相手の雌が不幸になるだけだと思った。

それは格好付けた建前で。
本心は、怖かったから。

たった1人の雌(ヒト)と、別れるその時が怖かったからだ。

カイユに会って。
俺は‘生きたい’と初めて思った。
心の底から‘生きたい‘と願った。

アリーリア。

もっと早く、君と出会いたかった。
もっと長く、君と過ごしかった。

アリーリア。

俺。

もっと。
君と生きたいんだよ。

「おい、婿殿」
「っ!?」

 腹に。
 蹴り。

「……いきなり、なにすんですか」

一応、抗議した。

「避けれるに避けないてめぇのそういうとこ、俺はけっこう気に入ってるんだぜ?」

ベッドに腰掛けたまま伸ばした右足で俺の腹を蹴ったセレスティスは眼を細め、口の端をあげて笑った。

「笑えよ、ダルフェ」

その笑みには王子様の‘お’の字すらない。

「カイユとジリギエの前じゃ、そんな顔するんじゃねぇぞ? 俺にも出来たんだ、てめぇにも出来るさ。そんなしけた面(つら)してちゃ、男前が台無しだぜ」

生きたい雄(オレ)と、死にたい雄(あんた)。

「ほら、いつもみたいにへらへら笑えよ」

言いながら立ち上がり、両手で俺の頬を数回軽く叩いた。

「セレスティス……へらへらは余計ですよ」
「そうかい? そりゃ悪かったな‘婿殿’」

俺の右足を踏みつける踵にさらに力を加えながら、舅殿は言った。
この足の指の骨を押し砕く感じの絶妙な踏みつけ方……ほんと、そっくりな父娘だ。 

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