四竜帝の大陸【青の大陸編】
竜族であるスキッテルさんは、何も言わなくても初めて会った時からある一定の距離を保って接してくれていた。
蜜月期であるハクちゃんを刺激しないように、なおかつ私と会話が成り立つ絶妙な距離感。
床下の保管庫から戻ってきたスキッテルさんは、仁王立ちのハクちゃんを見て暗褐色の瞳を細めた。
「……蜜月期を経験した雄として、あなたには頭が下がります。さあ、奥様につけて差し上げてください」
「……」
店内奥の作業スペースを背に立つスキッテルさんと、通りに向かって右手にある商談用の応接セットに腰を下ろした私の間に壁のように立つハクちゃんに、平たい長方形の木箱の蓋を外して差し出した。
ハクちゃんは無言でそれを両手で受け取り、首だけ動かして私を見た。
「……りこ」
ハクちゃんのつり眼度合いが、3割り増しになっていた。
「うっ!?」
その顔に運悪く遭遇してしまったスキッテルさんが、よろよろっと後ろに数歩下がった。
すみません、スキッテルさん!
文句なく美形で整ってるのに、必要以上に怖い顔ですみませんっ!
「ハクちゃん? どうしたの?」
私は急いでハクちゃんに駆け寄り、その凶悪極まりない目元に手を伸ばした。
背伸びをして精一杯伸ばした指先が、私を見下ろす彼に触れる。
「りこ。我は……我はっ」
今までの経験から、彼の言いたいことが私には分かった。
私は彼の奥さんだもの!
「大丈夫! パジャマが一人で着れるようになったんだから、これだって出来るわっ!」
私がそう言うと同時に、鋳物のドアから微かな音。
「おっ! お客様か?」
スキッテルさんは腰をとんとん叩きながら、早足でドアへと向かった。
ハクちゃんと私の横を通る時、ちらりとこちらを見た暗褐色の瞳には恐怖心ではなく好奇心といいますか……。
「本当に面白いご夫婦だ。春になったらこの帝都から去ってしまうなんて、つまらないなぁ……あぁ、でも俺ももうすぐ逝かなきゃだから、いいか」
ドアを開ける前にこちらを振り返り、スキッテルさんは立派な眉毛を右手でこすりながら言った。
「え? あの、いかなきゃって……お引越しされるんですか?」
聞き返した私にスキッテルさんは顔を左右に2回動かし、答えた。
「いいえ、そうではなく……そんなことより、多分、外に居るのは人間のお客様ですよ。竜族ならこの程度のドア、片手で開けますからね……まぁ、カイユちゃんなら指1本ですけど。人間のお客様なんて、久しぶりだな」
スキッテルさんは両手を使ってドアを広く開け、閉まらないように押さえた。
「いらっしゃいま……!?」
蜜月期であるハクちゃんを刺激しないように、なおかつ私と会話が成り立つ絶妙な距離感。
床下の保管庫から戻ってきたスキッテルさんは、仁王立ちのハクちゃんを見て暗褐色の瞳を細めた。
「……蜜月期を経験した雄として、あなたには頭が下がります。さあ、奥様につけて差し上げてください」
「……」
店内奥の作業スペースを背に立つスキッテルさんと、通りに向かって右手にある商談用の応接セットに腰を下ろした私の間に壁のように立つハクちゃんに、平たい長方形の木箱の蓋を外して差し出した。
ハクちゃんは無言でそれを両手で受け取り、首だけ動かして私を見た。
「……りこ」
ハクちゃんのつり眼度合いが、3割り増しになっていた。
「うっ!?」
その顔に運悪く遭遇してしまったスキッテルさんが、よろよろっと後ろに数歩下がった。
すみません、スキッテルさん!
文句なく美形で整ってるのに、必要以上に怖い顔ですみませんっ!
「ハクちゃん? どうしたの?」
私は急いでハクちゃんに駆け寄り、その凶悪極まりない目元に手を伸ばした。
背伸びをして精一杯伸ばした指先が、私を見下ろす彼に触れる。
「りこ。我は……我はっ」
今までの経験から、彼の言いたいことが私には分かった。
私は彼の奥さんだもの!
「大丈夫! パジャマが一人で着れるようになったんだから、これだって出来るわっ!」
私がそう言うと同時に、鋳物のドアから微かな音。
「おっ! お客様か?」
スキッテルさんは腰をとんとん叩きながら、早足でドアへと向かった。
ハクちゃんと私の横を通る時、ちらりとこちらを見た暗褐色の瞳には恐怖心ではなく好奇心といいますか……。
「本当に面白いご夫婦だ。春になったらこの帝都から去ってしまうなんて、つまらないなぁ……あぁ、でも俺ももうすぐ逝かなきゃだから、いいか」
ドアを開ける前にこちらを振り返り、スキッテルさんは立派な眉毛を右手でこすりながら言った。
「え? あの、いかなきゃって……お引越しされるんですか?」
聞き返した私にスキッテルさんは顔を左右に2回動かし、答えた。
「いいえ、そうではなく……そんなことより、多分、外に居るのは人間のお客様ですよ。竜族ならこの程度のドア、片手で開けますからね……まぁ、カイユちゃんなら指1本ですけど。人間のお客様なんて、久しぶりだな」
スキッテルさんは両手を使ってドアを広く開け、閉まらないように押さえた。
「いらっしゃいま……!?」