四竜帝の大陸【青の大陸編】

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昼食後、ハクちゃんは迎えに来た竜帝さん手を引かれ、部屋から出て行った。
竜帝さんは「俺について来い! 逃がさないぞ、このクソじじいっ!!」と言った手前、どうしても前を歩きたかったみたいで、まるで競歩のような歩き方でハクちゃんを強引に引っ張って去っていった。
女神様はハクちゃんに皇女様を会わせるのだと、ちゃんと私に教えてくれた。
だから、私はハクちゃんに「行ってらっしゃい」と言うことができた。
正直に言うと、内心はとても複雑だったけれど……行かないでという言葉を、飲み込むことが出来た。
 
「トリィ様、本当に良いのですか? お嫌ならカイユが追い払っ……お断りしてきますよ?」

今日のカイユさんはレカサではなく、青い騎士服を着ていた。
腰には朱塗りの鞘……<赤の竜帝>、ダルフェさんのお母さんから贈られた刀。
高い位置で一つに結われた銀の髪には、澄んだ空色の宝石が煌めく銀の髪飾り。

「ううん、大丈夫。……ありがとう、カイユ」

鏡台の前に座る私の髪を梳かすカイユさんの手には、白い手袋。
鏡の中の水色の瞳が、膝の上に置いた両手をぎゅっと握った私に気づき……細められた。

「陛下のくださったドレス、とてもお似合いですわ。この青はトリィ様の黒髪を引き立てますし、かけらのネックレスも深海に舞う真珠のようです。ふふっ、これが元々はヴェルヴァイド様の中身だなんて、見た目はだけでは全く分かりません」
「……カイユ。ハクちゃんは皇女様の名前を知らないって、私に言ったの。それって、酷い……あの皇女様は知っているのかな? スキッテルさんのお店で会った時、あの人がハクちゃんのことをすごく好きなんだって私にも分かったのに……」

ずっと、思ってた。
ハクちゃんの過去の女性に会ったら、私はすごく嫉妬してしまうって。

「名すら知らぬと? まったく……<赤の竜帝>陛下が以前、ヴェルヴァイド様は女にとって最低最悪だと仰っていましたが、本当に酷いものですね」

嫉妬して、嫉妬して。
感情が荒れ狂って、ハクちゃんに八つ当たりしてしまうんじゃないかって思ってた。

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