四竜帝の大陸【青の大陸編】
でも、ハクちゃんの皇女様への態度、言動を目の当たりにした私には……これは同情なんかじゃく、同じ人を愛している女としての……。

「ハクちゃん、ちゃんと皇女様とお話できたのかな……」

彼女からすれば、私はいきなり現われて愛する人を奪っていった女だ。
嫌われて……憎まれて当然だし、私が彼女の立場だったら……どうしただろう。

「無理でしょうね。ヴェルヴァイド様のことですから何も言わないか、いらぬことを口にして皇女を傷つけるだけでしょう」
「そんなっ」
「どんなに皇女がヴェルヴァイド様を愛そうと、その想いはあの方には伝わらない。ヴェルヴァイド様には彼女の辛さや苦しさを理解できない……しようという気すら、お持ちでは無い。そんなあの方に皇女を会わせるなんて、陛下も残酷なことを……まぁ、良かれと考えてのことですが、あのような酷い男に心を奪われた女の気持ちが、恋を知らぬ陛下にはまだお分かりにならないのです」

カイユさんは持っていたブラシを鏡台に置き、膝で握ったままの私の手に右手を重ねた。

「トリィ様、貴女が」

長身を屈めて、右手で私を後ろからそっと引き寄せて。

「あの皇女を、救って差し上げてください」

私を優しく抱きしめて。

「ヴェルヴァイド様への報われぬ想いから、解放してあげてください」

そう、言った。

「…………」

答えることが出来ない意気地無しな私の手を、カイユさんがぎゅっと握ってくれた。


< 739 / 807 >

この作品をシェア

pagetop