四竜帝の大陸【青の大陸編】

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「<青>っ! あんたの所為よ! あんたが無能だからよ!! さっさと死んで代替わりしちゃえ、馬鹿、馬鹿! キィイイイイッ~!」

<黄の竜帝>が陛下に投げつけたティーカップの砕ける音に、<黒の竜帝>が閉じていた目を開けた。
黄色い竜はこちらの脳細胞を破壊しそうな超音波じみた声をヒステリックにあげ、身に着けていた花柄の洋服を黄色い爪で音をたてて引き裂いた。

「落ち着かんか、黄よ。自ら衣服を乱すなど、女子として……まぁ、言うだけ無駄か」

黒曜石のようだった爺さんの鱗は艶を失い、まるで炭のようなものへと変化していた。
死期が近いんだろうに、こんな事態になったらのんびり死に仕度している暇も無くなっちまうなぁ。
 
「そうね、無駄だわ」

億劫そうに目蓋をゆっくりとあげた<黒の竜帝>とは逆に、<赤の竜帝>は緋色のクッションに寄りかかり、その真紅の目を閉じた。

「過ぎたことを責めるより、今はすべきことがある……。<四竜帝>としてそれが分かっていても、私達は貴方に怒りと失望を感じ、あの人がここに居ないことを悲しまずにはいられないのよ、<青>」

当然ながら、<黄の竜帝>が投げたカップは陛下へは届かない。
遠く離れた竜帝達は、美しい<青の竜帝>に傷一つけることは出来ない。
だが陛下の表情にあるのは、隠し様の無い苦痛。
大陸間通話を可能にする巨大な3枚の伝鏡がそびえ立つ室内の中央に立つ青い麗人は、事実だけを簡潔に報告し。

「……」

その後は、四竜帝達の感情を隠さぬ視線を正面から受け止め立ち尽くすだけ。
若き<青の竜帝>を強く責めているのは、竜帝達の言葉ではなく。
きっと、自分自身なのだろう。
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