四竜帝の大陸【青の大陸編】
「ハクちゃん?」

私が呼びかけると、彼の全身がびくりと跳ねた。

「ハクちゃん、あのね! 女の人って」
「血」

ん?

「りこ、血の匂いが」

ああ、そうですよ。
手を擦り剥きましたから。

「私、手のひらを擦り剥い……」
「け、怪我をしたのだな? 血が……」

ハクちゃんはへなへなとその場にしゃがみ込み、私から眼を離さずに言った。

「わ、わ……我がりこに怪我を。血をなが、なが、な……」

わなわなと震える口……。

「りこが怪我をした! 血がー!血が!」

四つんばいで私ににじり寄り、スカートの裾にしがみ付きながら言うその姿を見たら……。
見た目と中身のギャップが酷くて、過去の女の人に捨てられたんではないかとすら思えた。

「た、大変だ! 今、医者を……りこ、りこ。血が、血が出っ!!」
「てめぇのせいだぞ、ヴェル。あ〜ぁ、可哀相になぁ。人間には再生能力がねぇから、しばらく痛むぞ」

竜帝さんの言葉を聞いたハクちゃんの両手が、びくんと震えた。

「い、い、痛むのか? り、りこ。血、血が」

ハクちゃんの取り乱しようを見ていたら、逆に私のほうが冷静になってきた。
見た目は悪の帝王(?)みたいな成人男性が私のスカートを握ってぷるぷる……。
しかも、切れ長の眼は今にも洪水を起こしそうだし。

私が手を擦り剥いただけでハクちゃんは……。
ちょっと、嬉しいかも。
うん。
過去の女の人に嫉妬したって、しょうがない。
不毛だ。

「痛いけど、これくらい平気」

それに、気づいたの。
私はやきもち焼いたんだよね?
嫉妬したんだよね?
 
ハクちゃんが好きなんだ、私。
好きなのは分かってたけど。
すごく、すごく。
すごく好きだったんだ。

「りこ、すぐに医者を」

立ち上がろうとしたハクちゃんの首に腕を回し、しがみついた。
頬と頬を合わせ、腕に力をこめる。

「ごめんね。不安にさせて」

ハクちゃんも、さっきの私みたいな気持ちになったのかな?
比べられるように感じて悲しかったのかな?
どんなに美形だって力があったって、不安なんだね。
私のことを本気で好きでいてくれるから……。

「私の一番はハクちゃんだから」

本当は愛してますって言いたかったけど。
言葉が分からなかったから。

「大好き。私の白い竜」

そう、言った。

「大好きよ」

愛してる。
可愛くて、綺麗で。

怖い貴方を。


< 97 / 807 >

この作品をシェア

pagetop