最後の恋、最高の恋。


その大きな会社に着いたのは、18時26分だった。

まだ坂口さんの指定した時間まで30分もあるけど、近くにある喫茶店に入って待つ気にもなれなくて、玄関前の大きく太い柱によりかかって待つことにした。


冬になると日が落ちるのも早くて、もう外は真っ暗だ。

彼の会社の玄関の光が足元を照らしている。

マフラーにうずめた顔が、外の空気に触れている部分だけが痛く感じるくらい寒いけど、今から言う言葉を頭で考えているだけで、そんなことは気にならなかった。



待ち始めて5分も経たなかったと思う。

玄関の自動扉の開く音がして、それと同時に騒がしい声が聞こえてきた。


仕事を終えて楽しそうな声じゃなくて、切羽詰まったような言い合う声。
悪いと思いながらも、ここから動くこともできなくてそのまま立っているしかできない。


「嘘なんだろう!? 俺は知ってるんだからな! 坂口は三浦じゃなくて、妹と付き合ってるんだってことはっ」


聞いたことのない男の人の声だった。
でも、その中に出てきた名前はとても知ってる名前だ。
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