最後の恋、最高の恋。
キョロキョロと車の中を見回す私に気付いたのか、「なにか面白いものでもあった?」と前方から目を逸らさずにくすくす笑いながらハンドルを切る坂口さんは、私の考えてることなんて当たり前のようにお見通しなんだろう。
特技を“私の考えてることを読むこと”にすればいいと思う。
「……どこ行くんですか?」
“どうしてファミリーカーなんですか?”と聞きたいのをグッと我慢して、無難な質問をぶつけると、さっきは“どこ行こうか”なんて言っていたくせに「着いてからのお楽しみ」なんて意味深な台詞を口にする坂口さん。
本当に行き先が決まっててそう言ってるのか、まだ行き先が決まってないからそう言ってるのかわからないけど、きっと私が何を聞いても答えてくれないだろうから、私はポスンとシートに背中を預けて、流れる景色を眺めることにした。
車内はラジオも音楽もなにも流れてないから、車のエンジン音とハンドルを切る微かな音、曲がるときのウィンカーの音くらいしか聞こえてこない。
気のおける友達とかと二人っきりだったら別に気にならないけれど、今一緒にいるのはこの間会ったばかりの、ほぼ初対面の年上の男だ。
しかも告白までされて、そのうえさっき自分の淡い想いに気付いた相手でもある。