千年の追憶【完】
あれから何日かが過ぎた。


何事もなかったかのように繰り返される日常。


でも俺は、平常心ではいられなかった。


水菊を抱きしめた時の、折れてしまいそうな華奢な体が、柔らかに身動ぐ。


その感触が腕に残り、俺を苦しめる。


それに、唇の温もり。


…もっと水菊に触れたい。


「早時様。
よろしいでしょうか?」


不意に声をかけられた。


俺は、強く頭を左右に振って、現実に戻った。


ここは俺の部屋。
今はまだ昼前で、書類に目を通している最中だ。


「水菊か。どうした?」


呼吸を整えてから、声をかけた。


静かに障子が開き、少し目尻が垂れた大きな瞳が俺をしばらく見つめたが、スッと視線が外される。


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