犬と猫…ときどき、君
「ふー……」
ドッグランの片隅で、ゆっくりと息を吐き出す。
ホントはたいして、吸いたくもない煙草。
――いつからだっけ?
こうして何かを誤魔化すように、煙草を吸い始めたのは……。
肺の深い所まで吸い込まれずに吐き出されるその煙は、無駄に白い。
でも、この方がいい。
ユラユラと揺れる、真っ白な煙の向こう。
ぼんやりと見える窓の奥には、一瞬泣きそうな顔をした胡桃の頭を、そっと撫でる及川さんの姿。
「……」
相変わらず、愛おしそうな目で見つめてくれんじゃん。
及川さんのその表情に、俺は少し俯いて笑った。
「皮肉なもんだよなぁ……」
こうして離れてみた、今なら分かるのに。
胡桃が及川さんを見つめるその瞳が、あの頃、俺を見つめていた瞳と違う事くらい。
でもあの頃の俺は、どうしようもなくガキで、胡桃の事が好き過ぎて。
ホント、どうかしてたんだ。
「胡桃ぃー……好きだぞー」
なんて、届きもしないそんな言葉を窓越しの彼女に向かって呟いた俺は、自嘲的に笑うと、煙草を灰皿に押し付け、その火を消した。
“もう、終わった恋だ”。
毎日毎日、俺は自分にそう言い聞かせる。