犬と猫…ときどき、君


「芹沢のせいじゃない」

「……」

医局に戻って、白衣を脱ぐ私に、城戸が静かに声をかけた。

「あの手のオーナーには、何を言っても無駄なんだよ。お前だって分かるだろ?」

「だけど、助けられたかもしれないのに」

悔しくて震える呼吸を何度も吐き出しながら、私は唇を噛みしめた。

「オペを強要することはできないからな……」

城戸は最初から、分かっていたんだ。

あの犬にはすぐにでもオペが必要なことも、あのオーナーが、それを了承しないことも。

全部わかった上で「断るか?」と、私に尋ねたのだ。

私が掲げたのは、ただの理想論でしかなくて。

「ごめんね、城戸。最初っから、城戸の言うことを聞いてれば……」

悔しくて、悔しくて、泣きたくないのに、やっぱり涙が零れてしまう。


「芹沢は悪くない」

「……ん」

下を向く私の頭に、そっと乗せられた城戸の手のひら。

それがあまりにも温かくて――。

「悔しい」

「うん……。でも、お前のせいじゃない。だから、泣くな」

「――っ」

ダメだと分かっているのに、私はまたボロボロと涙を零してしまうんだ。


< 285 / 651 >

この作品をシェア

pagetop