犬と猫…ときどき、君
「はぁーい、じゃー自己紹介からっ!……って、みんな知ってるか!! でもしとくか!?」
――あれから三時間近くののち。
いつのにも増してテンションの高い篠崎君を横目に、私は隣に座るマコの腰の辺りを肘で小突いた。
「ちょっと、どういう事!?」
小声で呟く私に、マコは顔の前で手を合わせる、もはや見飽きたポーズを取っている。
「ごめんっ!! 急遽一人遅れて来ることになったらしい!!」
「だったら私、いらないじゃんっ!!」
「でもほら、そのうち来るから!」
あー、やっぱり来なきゃよかった……って、ワンピースの誘惑に釣られた私が悪いんですけれども。
「はぁ……」
煙草の煙の害が一番少ない端の席に座った私の目の前には、座布団だけが置かれた無人の席が。
遡る事、今から十五分。
お店に到着するや否や、マコと同じポーズを決めた篠崎君に、私は目を瞬かせた。
「悪いっ!! こっちも一人、急にメンバー変わって……。ソイツ、ちょっと遅れるらしいんだ」
軽くブーイングが起きていたけど、まぁ私にとっては都合がいいと言えばいい。
元々“恋人探し”には参加しないんだから、そんな人間が向かいに座ってたんじゃ、その人が可哀そうだもん。
そう思って、煙草の事と合わせて志願してみたこの席。
もういっその事、来なかったらいいなーなんて、良くない事さえ考えてしまう。
「……」
彼氏ねぇ。
別に、欲しくないワケじゃないんだけどなぁ。
周りの友達の楽しそうな様子を眺めながら頬杖を付く私の前には、やっぱり枝豆とホッケの開き。
「お前、オヤジか?」
ねー。
自分でもそう思うよー。
……ん?
「……」
「ん? なに?」
久々に、言葉が出なくなるほど驚いた。
言葉を失い目を見開く私の目の前に立っていたのは、
「城戸……君?」
「おー。城戸君ですけど」
今日、ここにいる予定のなかった城戸春希で。
「何で――っ」
“何でいるの!?”
そう続けようとした私の言葉を遮ったのは、お酒が入って顔を真っ赤にしたマコだった。