犬と猫…ときどき、君
「あー、城戸到着ー! 席っ!! そこねー!!」
「はいはい」
「……」
「……何だよ」
「いえ、別に」
マコ、ハメたな?
一瞬マコを睨み付けたものの、次の瞬間には、目の前に胡坐をかいて座った城戸春希を思わず凝視してしまう。
「ビックリした」
「へっ? 何で?」
「だって、城戸君あんまりこういうの来ないって聞いてたから」
「……まぁ、たまには」
ボソッと答えた彼が伸ばした手の先には、メニュー表。
「そっか」
「芹沢は時々出没するって噂は聞いてますけど」
一年の途中辺りから、私を“芹沢”と呼ぶようになった城戸春希は、頬杖を付いてメニューに視線を落とし、そんな言葉を口にした。
「何それ。どこ情報?」
「風のウワサー」
「違うよ。マコの付き合い」
「わかってる」
ゲンナリとして吐き出した私の言葉に視線を上げると、真っ直ぐ目を見て、クスッと笑う。
「あんた、こういうの苦手そうだもんな」
「まぁねー……」
「入ってきた瞬間、一人だけ“付き合いで来ましたオーラ”出してたし」
そう言って、店員さんを呼び出すボタンに手を伸ばしながら、何やら楽しそうに笑った。
「だってさ、こういう所でウケる性格じゃないのは自分でもわかってるし」
「ふーん。因みに“ウケる性格”って、どんなん?」
「うーん。甘え上手とか、盛り上げ上手とか?」
「あー、はいはい。まぁでも――」
「あっ!! 詩織ちゃんだー!!」
「マジで!?……あ、ホントだ!」
突然、城戸春希の言葉を遮るように上げられた同じテーブルの男の子の声に、私たちは顔を上げて視線を辿る。
「うわっ。最悪」
そこに映るのは、目を輝かせる男性陣と、それとは対照的に、薄い布で区切られた向かいのスペースを見て顔を顰める女性陣の姿。
「何あれ?」
盛り上がる男性陣を横目に、頬杖をついたまま私に視線を戻した城戸春希は、どうやら彼女の事を知らないらしい。