犬と猫…ときどき、君
「……見つけた」
駐車場の片隅にしゃがみ込む私の頭上から落とされたその声に、体がビクッと震えた。
「……ごめんなさい」
少し息が切れている様子を見ると、きっと私を捜し回ってくれていたんだろう。
「別に、謝らなくていい。大丈夫か?」
「……うん」
「嘘つけ」
その優しい声に、一瞬止まった涙が、またポロポロと零れ落ちる。
「ごめん。俺、分かっちゃったかも」
「……そっか。そうだよね」
自嘲的に笑う私の、すぐ目の前にしゃがみ込んだのは……。
「黙っててごめんね。今野先生」
まるで泣いている子供を落ち着かせるような、優しい笑顔を浮かべる今野先生だった。
そうだよね。
城戸が、追いかけて来るはずがない。
「いや、俺の方こそごめん」
「知らないフリすればよかったんだけど」と付け加えて、困ったように笑う今野先生は、どこまでもいい人で、一瞬でも、城戸が追いかけて来たのかと思った自分に罪悪感を覚える。
隣に腰を下ろした今野先生は、それから何かを口にするわけでもなく、近くのコンビニで買ってきてくれた缶ジュースを差し出したあとは、ずっと黙り込んでいた。
「城戸は、大学の時の彼氏だったの」
「……うん」
昔の事をポツポツと話し始めた私の声に、ただ静かにあいづちを打ちながら、時々しゃくり上げる私の背中を、その大きな手の平でそっとさすってくれる。
どうしてかな。
もう、胸の中がいっぱいになりすぎて、息が苦しくて……。
一人で抱え込むことに、疲れてしまったのかもしれない。
今野先生は城戸の友達なのに。
でもきっと今野先生は、こんな事で城戸や私との付き合い方を変えるような人じゃないって、分かっているから。
だからこんな風に、全てを話してしまったのかもしれない。
「芹沢先生?」
全てを話し終え、下を向いたまま自分の指先を見つめていた私の耳に、今野先生の静かな声が届く。
「気付いてるとは思うけど、俺……芹沢先生が好きだよ」
「――……っ」
暑さを取り戻した空気に響く、今野先生の柔らかい声。
「こんな時に、卑怯かもしれないけど」
クスッと笑いながらそう口にして、驚いて顔を上げた私に向き直ると、今度は真っ直ぐに目を見つめながら、
「好きだよ」
もう一度、同じ言葉を落としたんだ。